寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 今まで考えてもみなかったが、夫婦とは元を正せば赤の他人だ。子供にしてみれば親は生まれた時から家族だが、夫婦となればそうとはいかない。

(わたし、ちゃんとヴァルト様と家族になれるのかしら……)

 この対等とは言えない関係のまま夫婦となって、ただ付き従っていればうまくいくのだろうか? 血のつながりはあっても、心が通わない家族は少なくない。使用人を多く従え、それでなくとも貴族は家族同士の交流が希薄になりがちだ。

 ダーミッシュ家に養子に入り、自分はただ運がよかっただけなのかもしれない。義父と義母は両家が親戚筋ということもあるが、ふたりは貴族では珍しい恋愛結婚だ。

 貴族に生まれたからには、それぞれが背負うものがある。
(ノブレス・オブリージュ……)

 そんな言葉が頭に浮かんだ。贅沢な暮らしができる代わりに、領民の生活を守る義務がある。政略の駒として他家に嫁ぐことは、貴族女性として当然とされる世界だ。
 それは家のため、ましてや国の安泰のためと言われたら――

(オクタヴィアも、そしてわたくしたちも……龍の託宣を果たすのは、義務なんだわ)

 今さらながらにそのことを実感した。

(異世界転生なんて、もっときゃっきゃうふふしてるイメージだったのに)
 現実はシンデレラのように、王子様と結婚してハッピーエンドとはいかないようだ。

 オクタヴィアのように逃げだしたいのかと言うと、別にそう言うことでもない。うまくは言えないが、ただ、ジークヴァルトに頼りきりになるのが嫌なのだ。

(どうやったら、この気持ちをわかってもらえるかしら……)

 ジークヴァルトの腕の中、そっとその顔を見上げる。眉間にしわを寄せて書類の文字を目で追う姿を、しばらくの間じっと見つめた。

「どうした? 眠かったら寝てもいいぞ」
「いえ……お仕事の邪魔をして申し訳ございません」

 手を止めたジークヴァルトに微笑んで、リーゼロッテはその瞳を静かに伏せた。

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