寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「お手数をおかけして申し訳ございません。あの、サロンにお茶を用意いたしますので、どうぞご休憩なさってください」
「いや、必要ない。これが終わったらすぐに帰る」

 寝室から出ると、ジークヴァルトは後ろに控えていたエラの顔をみやった。

「エデラー嬢、人払いをしたい。ダーミッシュ嬢とふたりにしてくれ」
「え? ですが……」
「問題ない、五分で済む。扉は開けたままでいい」

 そんなふうに言われては、エラも引き下がざるを得なかった。「仰せのままに」と頭を下げて、リーゼロッテの部屋から出ていった。エラは開け放したままの扉のすぐそばで息をひそめた。だがここからでは、中の様子をうかがい知る事はできそうにない。

「ダーミッシュ嬢、ここに座れ」

 ジークヴァルトにソファに座るように言われ、リーゼロッテは素直にそこに腰かけた。そこは日常リーゼロッテがいつも座る定位置だ。
 公爵家では、となりに大きなクマの縫いぐるみが座っていた。ふたり掛けのソファの空いたスペースを見やって、なんだか物足りない気分になってくる。

(アルフレートも連れてくればよかったかしら……)

 そんなことを思っていると、ジークヴァルトがリーゼロッテの前で片膝をついた。そのまま背もたれに手を伸ばし、リーゼロッテを囲うように閉じ込めてくる。

「ジークヴァルト様?」

 こてんと首を傾けたタイミングで、ジークヴァルトがソファへと力を流し込んだ。

「ぅひあっ」
 ついでにリーゼロッテの体の中にも流れ込んできて、奇声が思わず飛び出した。

「ヴァルト様……不意打ちはやめてくださいませ」

 これをやられると、いつも軽く感電した気分になる。すぐそこにある顔を、非難交じりに涙目で見上げた。

「たいしたことはないだろう」

 そう言ってジークヴァルトは、リーゼロッテの胸元に手を伸ばしてきた。一瞬身構えるが、胸に下げた守り石がすくい上げられるのを確認すると、すぐにその力を抜いた。

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