寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 確かめるように唇が(かす)かに動く。
「んっ……」
 体に熱が(こも)っていく。息づかいが荒くなり、溜まる一方の熱に、どうしたらいいのかわからなくなる。

 力が入らなくなって、背もたれに体を預けたまま、気づくと天井を見上げていた。ぼんやりと視線を落とすと、ちょうどジークヴァルトが首元のリボンを結び直しているところだった。
 きゅっと形を整えると、ジークヴァルトはリーゼロッテの体をすくい上げ、自身の膝に座らせた。

「お前を守る膜はまだ残っているようだ。だが、以前よりも弱くなっているように感じる。あまり過信はするな」
「マルグリット母様の……?」

 いまだ働かない頭で問うと、ジークヴァルトは「ああ」と頷いた。

 新年を祝う夜会でリーゼロッテを襲った(けが)れの正体は、いまだにつかめていない。そのことに不安を感じるが、母がそばで守っていてくれるなら、これからもどうにかなるだろうとも楽観していた。
 だが、夜会からもう三か月以上は立つ。あれ以来、それと同じものが接触してくる気配はまるでなかった。

「ヴァルト様、またすぐに公爵家へと参りますわ。こちらにいる間は十分気をつけます」

 そばを離れることも心労につながるのだと思うと、どんなお荷物なのだと自分でも哀しくなってくる。

「わたくし、ちゃんと自分の力を扱えるよう頑張りますわ」

 できることと言えば、もうそれしかない。リーゼロッテの思いとは裏腹に、ジークヴァルトの眉間のしわが深まった。

「お前はそのままでいい」
「ですが……」
「今日はカークと、ジークハルトを置いていく」
「ハルト様を?」
「ああ、やつがいれば、万が一の時すぐこちらに来られる」

 開け放たれた扉に目をやると、その向こうでジークハルトが浮きながらひらひらと手を振っている。

「部屋には入らないよう言ってある」
「ハルト様と離れても大丈夫なのですか?」

 守護者とはいつでも(つな)がっている存在らしい。しかも、フーゲンベルク領とここダーミッシュ領は、馬車で四時間はかかる距離だ。

「問題ない。オレにとっては、どうせ、いようがいまいが変わらない」
 そう言ってジークヴァルトはふいと顔をそらした。


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