寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「ふぅ、助かった」

 ニコラウスが胸をなでおろしていると、まだ近くにいたエマニュエルが、妖艶(ようえん)にほほ笑みかけてきた。

「ニコラウス・ブラル様、ご機嫌よう。先日のお茶会ぶりですわね。職務とは言え、再び堂々とフーゲンベルク家の門をくぐられましたこと、本当に感服いたしますわ。万が一、三度(みたび)ご訪問いただけましたときには、わたくしが。このわたくしが、ニコラウス様を心よりおもてなしさせていただきますわ」

 その場にブリザードが吹き荒れたかのような、身も心も凍りそうな声音だった。笑顔なのに、全くと言っていいほどその目は笑っていない。

「ほんと……その時がたのしみですわ」
 流し目を残しつつ、エマニュエルはアデライーデの背を追っていった。

「……どうしてオレの周りには、気の強い女しかいないんだ」

 胃の辺りを押さえながら、ニコラウスは「うう、癒しが欲しい」と涙目でつぶやいた。

「情けない奴だな」
「エーミール様……オレにはもうエーミール様しかいないっ」

 がばりと抱き着こうとしたニコラウスを、エーミールはあっさり()けてかわした。

「気持ち悪い言動をするな。叩き切るぞ」
「少しはやさしくしてくださいよ! 唯一の癒し的存在だったエラ嬢にも、イザベラのせいで嫌われたっぽいし、オレは今後、何に癒しを求めればいいんだっ」
「そんなものをエラに求めるな」
「だって、エラ嬢は無知なる者じゃないですか。そばにいてくれだけで、もうそれだけで癒されるというか……ああ、でも贅沢は言わないっす。やさしい女性なら、もう誰でもいい……」
「くだらんな」

 遠い目をして言うニコラウスに、虫けらを見るような冷たい視線を向ける。そのままエーミールは屋敷の中へと向かった。

「エーミール様、置いてかないでくださいよぉ」

 情けない声を出すニコラウスを無視して、屋敷の廊下を進む。エントランスに出ると、ちょうどこれから出かけると言った感じのエラと出くわした。

「エーミール様? ニコラウス様も、こちらにいらしていたのですね」

 ふたりに礼を取ると、エラは控えめに微笑んだ。その笑みはエーミールだけでなく、ニコラウスにも向けられている。

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