寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 馬車で二時間ほどかけて、グレーデン家へと到着した。単身、馬を駆って向かったエーミールが、馬車留めの所で待っていた。エラが降りると当たり前のように手を引いて、屋敷の中へとエスコートしていく。

「早いこと済ませて、さっさと公爵家へ帰ろう」

 ここは自分の家のはずなのに、エーミールはエラの手を引きながらそんなことを口にした。普段以上に、気が張っている様子が伝わってくる。エーミールは本当にグレーデン家を忌避(きひ)しているのだ。改めてエラはそう思った。

 以前、リーゼロッテのお供で訪問した時同様、まるで人の気配がしない家だ。使用人が目に付くのを嫌う貴族は少なからずいる。毛足の長い絨毯(じゅうたん)が敷かれた廊下は、足音さえ響かない。

「あの、エーミール様。お気遣いはうれしいのですが、今日はリーゼロッテ様の使いとしてこちらへご訪問させていただきました。このような扱いは必要ないかと思うのですが……」

 令嬢に対するような洗練されたエスコートを前に、エラは困ったようにエーミールを見上げた。これではエーミールが、エラを家に招待したかのような振る舞いだ。

「あ、ああ。そうだったな」

 慌てたようにエーミールはエラから手を離した。珍しく動揺している様子に、エラはエーミールがいつになく緊張していることに気づく。グレーデン家の女帝と呼ばれるウルリーケは、孫ですら畏縮(いしゅく)させる存在だった。

「あら? エーミールではないの。家にいるなんて珍しいこと」
「大方、母上の見舞いにでも来たんだろう」

 廊下の向こうから現れたのは、グレーデン侯爵夫妻だった。エラははっとして、すぐさま廊下の(はし)に避け、使用人のように礼を取ろうとした。

「そこまでする必要はない。あなたはリーゼロッテ様の使者だ」
「ですが……」

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