寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「やあ、リーゼロッテ嬢、今日もよろしくね」

 伯爵家の書庫で本を読みながら待っていたリーゼロッテに、カイは声をかけた。

「リーゼロッテ嬢は明日フーゲンベルク家に戻るの?」
「はい、エマニュエル様と一緒に行く予定ですわ」
「ブシュケッター子爵夫人、来てるんだ?」

「旦那様がリーゼロッテ様をいたくご心配されておりますから。デルプフェルト様、ご無沙汰しております」

 奥から本を数冊抱えたエマニュエルが姿を現した。エマニュエルが本を机に置くと、すかさずその手をすくい上げ、カイは指先に口づける。

「こんなところでお会いできるとは。相変わらずのお美しさですね」
「デルプフェルト様こそ、お変わりなく」
 ほほほはははと微笑み合うふたりは、どことなくうさん臭く見える。カイのチャラ男ぶりに、リーゼロッテもだいぶ慣れてきた。

「エラ嬢は公爵家に行ったまま?」
「はい、わたくしもすぐに向かうので、エラにはそのままあちらで待っているように伝えました」
「そっか。リーゼロッテ嬢も行ったり来たりでたいへんだよね」
「いえ、わたくしは……ヴァルト様に本当によくしていただいておりますから」
「ふうん?」

 リーゼロッテの反応を、カイはおもしろそうにみやった。ふたりは相も変わらず、順調にこじらせているようだ。

(ハインリヒ様と違って、ジークヴァルト様には何の障壁もないはずなのに)

 カイがジークヴァルトだったなら、間違いなく速攻でリーゼロッテを自分のものにするだろう。無垢な彼女を、少しずつ育てていくのも楽しそうだ。

「カイ様?」
 まじまじと顔を見られて、リーゼロッテは不思議そうに小首をかしげた。

「いや、何でもないよ。じゃあ始めようか」

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