寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「じゃあリーゼロッテ嬢、明日は気をつけてね」
「ありがとうございます。カイ様はしばらくはこちらにいらっしゃるのですか?」
「伯爵にお願いして、明日はここの学校を見学する予定なんだ。それが終わったら帰ろうかな?」

 カイを見送るために廊下を歩く。先を行くカイとリーゼロッテに、数歩遅れて歩くのがエマニュエルだ。
 見た目は三人だけだが、その後ろをカークが続き、そのさらに後方には、お目めきゅるるんな小鬼たちを、ぞろぞろと何匹も引き連れていた。視る者が視れば、驚きに振り返る在り様だ。幸いにもこのダーミッシュ家には、異形の存在を認識できる者はいなかった。

 途中、きゃあきゃあと騒ぐ少女たちの一団とすれ違った。廊下の(はし)に並んで形ばかりは礼を取っているが、みなリーゼロッテたちに好奇の目を向けている。

「ん? 行儀見習いの女の子たちかな?」
「はい、授業の一環として、定期的に見学に来ているようですわ」

 微笑ましそうに頷いて、リーゼロッテはその横を通り過ぎた。富裕層とは言え、平民がそうそう貴族の屋敷に足を踏み入れることはない。ダーミッシュ伯爵も大胆なことをすると、カイは素直に驚いていた。

 少女たちの列を通りすぎるや否や、突然カイが「はははっ」と腹を抱えて笑いだした。いきなりのことに驚いたリーゼロッテは、思わず足を止めて振り返った。

「どうかなさいましたか?」
「いや、なんだかしてやられた感がすごくって」
「してやられた感?」

 リーゼロッテがきょとんとすると、カイはいまだ笑いながら、「ううん、なんでもないんだ」と首を振って歩き出した。

 何がおかしいのか結局カイは、リーゼロッテが見送る間中(あいだじゅう)、ずっと最後まで笑い続けていたのだった。

< 135 / 403 >

この作品をシェア

pagetop