寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 少女たちの列の最後尾につき、ルチアはとにかく目立たないようにと、息をひそめながら歩いていた。貴族のお屋敷の廊下は、ふかふかの絨毯(じゅうたん)が敷き詰められている。いつか読んだ物語に書いてあった通りだと、その踏み心地を少しだけ楽しみながら進んだ。

「そこ! 私語は慎みなさい」

 興奮気味におしゃべりをする少女たちに、先頭の教師の注意がとんだ。はーいと返事をしながらも、やはりみなが浮足立ってそわそわとしている。

 廊下の向こうから、誰かが歩いて来るのが目に入る。すかさず教師が指示を出した。

「あちらは伯爵家のご令嬢、リーゼロッテ様でいらっしゃいます。さ、みなさん、壁に寄って決して粗相のないように!」

 金髪の令嬢と、貴族と思わしき青年が並んでこちらに向かってくる。教師自身も緊張しているのが伝わってきて、少女たちは壁に並んで慌てて頭を下げた。

(何、あれ……!?)

 ルチアもそれにならって頭を下げるが、驚きに目を見張っていた。令嬢たちの後ろに、もうひとり夫人が歩いていたが、そのさらに後方に、(いか)つい大男がついてきているのだ。

(あれはこの世の者ではないわ)

 街中でもいたるところで見かける黒い吹き溜まりのような(かたまり)は、時に人の形をとっていることがある。だが、あそこまではっきりと視えることはそうそうなかった。

 あれらと目を合わすと、助けを求めるかのように付きまとわれる。よくよく見ると、大男の後方にも、変な小人のような者たちが、床をぴょんぴょんと跳ねていた。ルチアは気づかなかったふりをして、とにかく視えないようにとぎゅっと瞳を閉じた。

 令嬢一行が、目の前までやってくる。顔を伏せろと言われたのに、少女たちはみなちらちらとその様子を伺っていた。

「ん? 行儀見習いの女の子たちかな?」

 ふいに聞こえた声に、ルチアは思わず顔を上げた。上げた先でその声の主と目が合いそうになり、ルチアは慌てて再び頭を伏せた。

(どうしてここにカイがいるの!?)

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