寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 令嬢と並んで歩いているのは、確かにカイだ。王都のはずれの街で出会ったカイは、ごろつきからルチアを守り、親切にこんがり亭まで案内してくれた。

 あの時に食べたシチューの味が忘れられない。真っ白なシチューは温かくておいしくて、不安でたまらなかったルチアの心も、一緒にあたためてくれた。今でこそ毎日贅沢な物を食べてはいるが、あの日ほどの感動を味わうことは一度もなかった。

(いいとこの坊ちゃんだって自分で言ってたけど、カイがお貴族様だったなんて……)

 令嬢と並んで歩く姿は、眩しいほどに堂々としている。ルチアは少しさみしいようなよく分からない気持ちになって、ぎゅっと唇をかんだ。
 とにかく見つからないようにしなければならない。カイが貴族だというのなら、なおさらだ。アニサは神殿や教会と共に、貴族の存在にも敏感だった。

 結局カイは、そのままルチアを素通りした。令嬢と楽しそうに談笑しながら、廊下の向こうへと去っていく。その後ろを例の大男と、不細工な小人たちがぞろぞろとついていった。小人はやけに楽しそうにぴょんぴょん跳ねていて、途中、そのうちの一匹が足を止め、不思議そうにルチアの顔を覗き込んできた。

 頑なに視えないふりをしていると、置いて行かれたことに気づいたのか、その小人は慌てて去った令嬢一行を追いかけていった。ほっと息をつくと、少女たちから興奮の声が上がる。初めて間近で見た貴族に、誰しも声が上ずっていた。

(早く帰りたい……)

 その中でルチアだけが、小さくため息を落とした。教師の合図で再び移動が始まり、ルチアもはぐれないようにと最後尾に回る。これから数人ずつに分かれて、さまざまな場所を見学する予定になっていた。

 先頭集団が廊下の角を曲がったところで、ルチアのスカートがくんと何かに引っかかった。驚いて下を見ると、おめめきゅるんなぶさ可愛い小人が、スカートのすそをぎゅっと掴んでいる。そのきゅるるんとばっちり目を合わせてしまったルチアは、出そうになった悲鳴を押し殺して、スカートを小人から取り返そうとした。

 だが、ルチアに自分の姿が視えていることが分かった小人は、さらに瞳をきゅるんきゅるんと輝かせて、上機嫌でルチアをどこかへ連れて行こうとする。

「やだ、ちょっと、やめて」

 必死に抵抗するも、小人はぐいぐいとルチアのスカートを引っ張って行く。助けを求めようにも、少女たちの列は廊下の角に消えてしまった。

(いやぁぁ、母さん助けてぇ!)

 ルチアは訳もわからないまま、伯爵家の廊下を小走りに連れられて行った。

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