寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 リーゼロッテが笑顔で勧めると、ルチアは遠慮がちに焼き菓子をひとつとって、その端を上品に小さくかじった。

「おいしい……」
「よかった、ダーミッシュ家自慢の焼き菓子なのよ」

 静かにほほ笑んだリーゼロッテは、次いで真剣な顔となる。

「ねえ、ルチア。あなた、異形の者で何か困ったりはしていない?」
「異形……あの変な小人みたいなやつですか?」
「ええ。それと街中にいる黒い塊だとか」
「あれは、目を合せたりしなければ、寄ってはこないから……」
「そう、ならよかったわ。あなたはちゃんと、異形との距離の取り方がわかっているのね」

 リーゼロッテの言葉に、ルチアがぐっと口を引き結んだ。まるで泣くのをこらえるかのようなそぶりに、リーゼロッテが心配そうにその顔を覗き込む。

「わたくし、何か気に(さわ)ることを言ってしまった?」
「い、いいえ! あれが視えるって信じてくれた人が、今まで母さん以外いなかったから」
「そうだったのね。異形の者が視える人は、ほかにもたくさんいるわ。困ったことがあったら、わたくしに遠慮なく相談してね」

「リーゼロッテ様」

 エマニュエルがとがめるように名を呼んだ。市井(しせい)の少女相手に安請け合いするなど、軽率すぎるというものだ。

「ごめんなさい。でも放っておけなくて……」

「あのっ、わたし、もう行かなきゃ」

 ルチアはそう言って、慌てたようにサロンの出口に向かった。途中で立ち止まったかと思うと、何か思い出したかのように振り返る。

「おいしいお菓子をありがとうございました」

 ルチアはそう言って、リーゼロッテに向けて綺麗な礼を取った。貴族令嬢のようなその所作に、意表を突かれたエマニュエルが目を見開いた。

「ブルーメ家の血筋と言うのは本当かもしれませんね」
 ルチアが去ったあとに、エマニュエルがため息をついた。

「ですが、どこの誰とも分らない者に対して、今後はあのようなことはなさらないでくださいね」
「心配をかけてごめんなさい」

 ジークヴァルトにも何か言われるだろうか。思わずカークに視線をやると、カークは壁に(ひたい)をくっつけ、いまだに背を向けていた。

「ありがとう、カーク。もうこちらを見ても大丈夫よ」

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