寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 とりあえず今回の事は、エマニュエルにも口止めをお願いして、ジークヴァルト過保護化計画の進行を、なんとか阻止したリーゼロッテだった。

「リーゼロッテ、少しいいかい?」
「お義父様」

 突然サロンにやってきたフーゴに、リーゼロッテは心配そうな顔をした。なんだか疲れ切っている。ツェツィーリアとの婚約話を進めて欲しいと、ルカは寝ても覚めても迫っているらしかった。
 フーゴは伯爵として家を守る義務がある。ルカの婚姻は、領民の生活をも左右する事案なため、そうやすやすと受け入れることなどできないのだろう。

「明日は少し立て込んでいてね。リーゼの見送りはしてあげられないから、今のうちに話をしたいと思ってね」

 その言葉にエマニュエルが席を外した。ふたりきりになったサロンで、フーゴと座って向かい合う。

「ジークヴァルト様とはどうだい? うまくやれているのかい?」
「はい、とてもよくしていただいておりますわ」
「そうか、それなら安心したよ」

 やさし気に目を細めたフーゴを見て、チクリと胸が痛んだ。ジークヴァルトには負担をかけてばかりだ。心配はさせたくないが、自分の胸の内を誰かに知ってほしかった。フーゴには、龍から賜った託宣のことを話してしまいたい。リーゼロッテはそう思って口を開いた。

「あ……」

 だがそれは言葉にならず、つかえたような違和感だけが残った。龍に目隠しをされたのだ。それを理解すると、リーゼロッテは諦めたように瞳を伏せた。

「リーゼロッテ……お前にひとつ聞きたいことがあるんだ」

 問いかけられて、リーゼロッテは顔を上げた。フーゴは珍しく言葉を探しているようだ。その顔を見つめると、フーゴは静かな瞳で見つめ返してきた。

「リーゼの目から見て、レルナー家のツェツィーリア様はどんな方だい?」
 その問いに少しだけ考えてから、リーゼロッテは次にふわりと笑った。

「ツェツィーリア様は可愛らしい方ですわ。わたくしは、大好きです」
「そうか……」

 ゆっくり頷くと、フーゴは静かに立ち上がった。

「明日は気をつけて行くんだよ」
「はい、お義父様」

 やさしく髪をなでられると、子供の頃に戻った気持ちになった。あたたかくてやさしくて、安心する大きな手だ。

「リーゼロッテ、何かつらいことがあったら、いつ帰ってきていいのだからね」
「はい、お義父様」

 リーゼロッテは甘えるように、その胸に抱きついた。

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