寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 他人事のように思って、カイは次の廊下の角を曲がる。ぷらぷらと歩いているようで、その実、目的地はしっかりあった。

(いた)

 人気(ひとけ)のない廊下を、その少女は長い(ほうき)で掃いている。肩口で切りそろえられた茶色の髪をした少女は、王都のはずれ街で会ったあの日よりも、少しだけ背が伸びていた。やせぎすだった体も、年相応に見えるくらいには、栄養が行き届いたようだ。

 イグナーツの手によって行方知れずとなっていたこの少女――ルチアを、カイはずっと探していた。ハインリヒの託宣の相手はアンネマリーだった。その事だけだったら、二度とルチアに会うこともなかっただろう。
 だが、消えた託宣はまだふたつある。ルチアが王族の血を引く可能性があるならば、それを確かめる必要があった。

(あれだけ探させておいて、こんなところに隠しておくなんて。ホント、イグナーツ様にはしてやられたな)

 王都の病院から忽然(こつぜん)と消えたルチアたちを、カイは懸命に追っていた。目くらましのようにいくつもの痕跡(こんせき)が残されていて、探し出すのにものすごく手間と時間がかかってしまった。

 足音を忍ばせて、カイはルチアへと近づいて行った。ルチアは箒と格闘している。よく見ると、弱い小鬼が一匹、(ほうき)の先にまとわりついていた。

「ちょっと! 邪魔しないでったら」

 ルチアが小鬼を遠くへ押しのけるように掃く。小鬼は瞳をきゅるんとさせて、楽しそうに(ほこり)の山を周囲へとまき散らした。

「ああっせっかく集めたのに!」

 ルチアは対抗するように箒を動かすが、ふわふわと舞い飛ぶ綿埃(わたぼこり)は、どんどん明後日(あさって)の方向へ逃げていってしまう。

「もう、いじわるしないでってばっ!!」

 ルチアが語気を荒げると、小鬼は驚いたようにぴょんとその場で()ねた。しゅんとうなだれると、今度は懸命に埃を追いかけだす。ルチアに怒られて、散らかしたものを集めようと思ったらしい。

 小鬼は埃を集めると、その山の前でえへんと胸を張るしぐさをした。それを見たルチアがぷっと笑って、さっと(ちり)取りの中に埃を掃いた。

「そんな得意げになっても駄目よ。もともとあなたがいたずらしなければ、それで済んだんだから」

 その言葉に小鬼が再びしゅんとうなだれた。悲しそうに瞳が潤んでみえる。ルチアは屈みこみ、「でもありがとう」と笑顔を向けた。小鬼の瞳がきゅるんと輝いて、すぐにぴょんぴょん跳ね始める。

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