寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「あなた、ほんと、変な異形の者ね」

 そう言って立ち上がったルチアが、開け放たれた窓の外に視線を向けた。下を覗き込むようにしてから、ルチアはさっと窓の下に身を隠す。カイも外に視線を向けると、裏庭には少女が数人いた。ここは二階の廊下なので、上から見下ろす形だ。

 何やらもめている様子で、ひとりを壁際に追い込んで、残りが囲むようにその少女に立ちはだかっている。何を言っているかは聞こえないが、罵倒(ばとう)のような声が耳に入った。

 窓の下から目だけを出して、ルチアはしばらくその様子を(うかが)っていた。少女が肩を突き飛ばされる。壁に背を打ち付けた少女は、すでに泣きじゃくっていた。

 意を決したように、ルチアは握っていた箒を持ち上げた。そうっとした動作で、もめている少女たちに向けて、その箒を投げて落とそうとした。すると、床にいた小鬼がぴょんと跳ね、窓枠へと乗り上げる。小鬼はルチアからひょいと箒を取り上げると、その()を大きく振りかぶった。

「え? 人に当てては駄目よ!」

 咄嗟に小声で言うと、小鬼はルチアに向けてぐっと親指を立ててみせた。次の瞬間、目にもとまらぬ速さで、箒は一直線に投げ飛ばされる。

 ざくっと音がしたかと思うと、ちょうど少女たちの真ん中辺りで、箒は地面に突き刺さっていた。反動でそのお尻がびよんびよんと揺れている。

 突然、空から降ってきた箒の(やり)に、言い争っていた少女たちが悲鳴を上げた。蜘蛛(くも)の子を散らすようにその場を逃げ出していく。追い詰められていた少女だけが、呆けたように取り残された。きょろきょろと辺りを見回して、その少女も慌ててその場を走り去った。
 その様子を、窓下から盗み見ていたルチアがほっと息をつく。

「なんだかおもしろいことしているね」

 背後から、覗き込むように言う。ついでに窓枠に両手をかけて、ルチアを囲うように閉じ込めた。

「カイ!?」

 至近距離で見下ろす瞳は確かに金色だ。あの日、くすんだ凍えそうな陽の元では、確証が持てなかったその色を確かめる。

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