寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「ルチア、久しぶり。運命の女の子に逃げられて、オレちょっと傷ついたんだけど」
「はぁ、何よそれ。だいたいあなた、あれからわたしに一度も会いになんて来なかったじゃ、ない、ですか……」

 尻つぼみにトーンを落としたルチアが、気まずげに身を縮こまらせた。面白そうに見やって、カイはぐっとさらに顔を近づける。

「どうしたの? 急にしおらしくなったりして」
「だって……あなた、お貴族様なんでしょう? わたしなんか話もできないじゃない」
「はは、やっぱりあの時気づいてたんだ」

 伯爵の屋敷の廊下ですれ違った時、ルチアの動揺はまるわかりだった。あの気配がなかったら、カイは何も知らずに通り過ぎていたかもしれない。

「え? カイもわたしに気づいていたの? だったらなんで……」
「いや、あそこで声かけられても、ルチアも困るでしょ? だからこうやって改めて会いに来たんだ」

 カイの触れそうで触れない距離の近さに、ルチアは窓際に張り付いた。

「別に会いに来る必要なんてないでしょ? あ、いえ、ないのでございましょう?」
「つれないなー。ルチアはオレの運命なんだって」
「だから、そういう冗談はやめて! くださいませ……」

 ぷっとふき出すと、カイはルチアの手を取り、その指先に口づけを落とした。

「手荒れもだいぶよくなったね」
「ちょっと、何するのよっ」
「ルチア姫に、親愛のしるしと忠誠の誓いを」

 そう言って、カイは再びルチアの手に口づける。慌てて手を引こうとするその手を掴みとり、長い前髪からのぞく瞳をじっと見つめた。

「母さんのことは残念だったね」

 途端にルチアは真顔になった。泣くのをこらえるように、ぎゅっと奥歯を噛みしめる。カイはそんなルチアを抱き寄せた。

「つらかったよね。ひとりでよく、頑張ったね」

 息を飲んだルチアの口から、次いで嗚咽(おえつ)が漏れた。カイの肩口に涙が落ちる。顔を見ないように、カイは小さな背中をぽんぽんとやさしくたたいた。

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