寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 しゃくりあげるルチアの首筋に、そっと手を添える。瞬間、カイの腕に体を預けて、ルチアはかくんと倒れ込んだ。そのままカイは、ルチアを廊下の壁際に座らせた。倒れないようにと肩を支える。

 涙が残ったまま、ルチアはすうすうと寝息を立てている。すぐ近くで、先ほどの小鬼が抗議するようにカイを威嚇(いかく)した。毛を逆立てているような弱い小鬼に向かって、指をぱちりと鳴らし、カイは軽く力を放った。

「消されたくなかったら邪魔すんな」

 火花のように琥珀の光が(はじ)け、小鬼はあわてて逃げ去った。(ちり)取りの後ろに隠れて、瞳を潤ませたままぴるぴると震えている。

 カイは向き直ると、迷いなくルチアのかつらをとった。その下から、鮮やかな赤毛が現れる。きつく三つ編みにされた髪は、いつかのように染められてはいなかった。

「似てるな……」

 呟きながら、長い前髪で隠されていた顔をまじまじと見やる。貴族名鑑に載っていたアニータ・スタン伯爵令嬢の面影を残しつつ、その顔立ちはどことなくピッパ王女にも似ていた。

(いや、どちらかと言うと、ディートリヒ王やバルバナス様似なのかもな……)

 ルチアが本当に、アニータとの間にできた、ウルリヒ・ブラオエルシュタインの娘なら、顔立ちが似ているのも当然のことだ。

(ウルリヒ様は、前王フリードリヒ様の叔父……)
 少し考え込んで、カイは呆れたように首を振った。

「要するにルチアは、フリードリヒ様の従妹(いとこ)ってことか?」
 ハインリヒにとっては、祖父の従妹だ。それも自分より、ずっと年下の。

 頬に残る涙を拭う。こうしてみると、ルチアは年相応の年頃の娘だ。

「それはさておき……あとはルチアに龍の託宣が降りているかどうかだな」

 人の気配が近くにないのを確認し、カイはどうしたものかと思案した。託宣の有無は、体のどこかに龍のあざがあるかどうかですぐわかる。だが、服を脱がせて調べるというのは、さすがにここではまずいだろう。
 眠り薬の効果もそれほど長いものではない。刺激によってはすぐに目を覚ます者もいる。

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