寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 とりあえずルチアの右手を取って、カイはそっと(そで)をまくり上げた。細く白い肌が見えるだけだ。それを手早く戻すと、反対の腕にも手をかける。同様に慎重に袖をまくり上げ、(ひじ)上あたりでカイははっと息を飲んだ。

 二の腕まで残りを、思わず性急にまくり上げる。あらわになったルチアの腕には、確かに龍のあざが刻まれていた。

「このあざの形は……」

 さっとカイの顔から血の気が引く。僅かに震えたその唇に、カイ自身も気づいていなかった。そのとき、ルチアが小さく身じろいだ。急いで袖を戻し、カイは元通りにかつらをかぶせて整えた。

「……カイ?」

 ぼんやりと見上げるルチアを覗き込みながら、カイはその頬に指を滑らせる。

「大丈夫? 少し気が遠くなってたみたいだよ?」
「え? わたし……」

 はっとすると、ルチアはカイの手を咄嗟のように払いのけた。座り込んだまま、壁伝いに距離を取る。急な動きにかつらがずれそうになったのか、ルチアは慌てて頭を押さえつけた。

「立てる?」
 手を引いて立ち上がらせる。

「オレ、急用を思い出したから、もう行くね」
「え、ええ……」

 手を掴んだまま、戸惑った様子のルチアの顔を、カイは再び覗き込んだ。

「また会いに来るから待っていて。いなくなったとしても、オレは必ずルチアを見つけるから。逃げたって無駄だよ?」

 真剣な声音で言うと、カイは(きびす)を返した。ルチアを残し、足早に校舎を去る。

(あの龍のあざは、消えた託宣のうちのひとつ……)

 カイは預けてあった馬の背に乗り、急ぎ王都へと舞い戻った。街はずれの庭付きの家にたどり着くと、カイは半ば転がり込むようにその家に入っていった。

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