寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
ここはカイが保有する、いわば隠れ家のような物だ。普段は老夫婦に管理を任せているが、それ以外、人が足を踏み入れることはない。
カイが階段を昇ろうとすると、長く大きなたれ耳をした短足な犬が、勢いよく飛びついてきた。激しくしっぽを振りながら、だるだるの皮膚の顔を寄せて、カイの顔をべろべろと舐めてくる。
「わ! リープリング、今、忙しいんだって」
激しいラブコールに、仕方なくカイはキッチンへ向かった。戸棚から出した大きな缶を開け、その中のものをひとつ取り出した。
「ほら、これやるから。今日は勘弁して」
犬用の皿に、噛み応えのある大きめのおやつを放り込む。リープリングはそれを即座にくわえると、自分用のベッドに戻ってうれしそうにかじり出した。
カイは急いで階段を駆け上がった。奥の扉を開けるとそこは、いろんなものが散らばった、雑然とした部屋だった。棚の中には古びた書物が並び、その床にも数多くのものが積み上げられている。テーブルの上には開かれたままの本が何冊も並べられ、メモ書きが山のように散乱していた。
この部屋だけは掃除をしないよう言ってあるので、歩くだけで積もった埃が舞い上げられる。積み上げられた書物やメモ書きの山をかき分けて、カイはひとつのノートを引っ張り出した。それを性急にめくっていき、とある個所で手を止める。
「やっぱり、これだ……」
ノートに記した龍のあざの形を確認する。そこに書かれているのは、神殿の書庫へと入った時に見つかった、行方知れずとなっている龍の託宣の情報だった。
龍が目隠ししたのか、王に報告する際には、その情報を調書に書き記すことはできなかった。だが、カイの個人的なメモ書きには、あの日の記憶のまま、その内容を記すことができている。
(リシルの名を受けしこの者、異形の者に命奪われし定め……)
その託宣と共に記されていたのは、正にルチアの腕に刻まれていた龍のあざと同じものだった。
「この運命から逃れるために、アニータは王城から逃げだしたのか?」
だが、異形の者など街中にも当たり前のようにいる。アニータに異形の者の知識がなかったとしても、逃げる手助けをした元王妃のイルムヒルデが、それを知らないはずはない。
「――ルチアは、異形に殺される」
穴が開くほどメモ書きを見つめ、カイは小さくつぶやいた。
カイが階段を昇ろうとすると、長く大きなたれ耳をした短足な犬が、勢いよく飛びついてきた。激しくしっぽを振りながら、だるだるの皮膚の顔を寄せて、カイの顔をべろべろと舐めてくる。
「わ! リープリング、今、忙しいんだって」
激しいラブコールに、仕方なくカイはキッチンへ向かった。戸棚から出した大きな缶を開け、その中のものをひとつ取り出した。
「ほら、これやるから。今日は勘弁して」
犬用の皿に、噛み応えのある大きめのおやつを放り込む。リープリングはそれを即座にくわえると、自分用のベッドに戻ってうれしそうにかじり出した。
カイは急いで階段を駆け上がった。奥の扉を開けるとそこは、いろんなものが散らばった、雑然とした部屋だった。棚の中には古びた書物が並び、その床にも数多くのものが積み上げられている。テーブルの上には開かれたままの本が何冊も並べられ、メモ書きが山のように散乱していた。
この部屋だけは掃除をしないよう言ってあるので、歩くだけで積もった埃が舞い上げられる。積み上げられた書物やメモ書きの山をかき分けて、カイはひとつのノートを引っ張り出した。それを性急にめくっていき、とある個所で手を止める。
「やっぱり、これだ……」
ノートに記した龍のあざの形を確認する。そこに書かれているのは、神殿の書庫へと入った時に見つかった、行方知れずとなっている龍の託宣の情報だった。
龍が目隠ししたのか、王に報告する際には、その情報を調書に書き記すことはできなかった。だが、カイの個人的なメモ書きには、あの日の記憶のまま、その内容を記すことができている。
(リシルの名を受けしこの者、異形の者に命奪われし定め……)
その託宣と共に記されていたのは、正にルチアの腕に刻まれていた龍のあざと同じものだった。
「この運命から逃れるために、アニータは王城から逃げだしたのか?」
だが、異形の者など街中にも当たり前のようにいる。アニータに異形の者の知識がなかったとしても、逃げる手助けをした元王妃のイルムヒルデが、それを知らないはずはない。
「――ルチアは、異形に殺される」
穴が開くほどメモ書きを見つめ、カイは小さくつぶやいた。