寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 深夜、寝台の上で目をつぶる。だが、眠気はなかなかやってこない。
 壁を隔てた隣の部屋に、穏やかな彼女の気配を感じる。安堵と共に、胸の奥が不満を訴えて、暗闇の中ジークヴァルトは幾度目かの寝返りを打った。

 もうすぐ彼女に会える。今朝目覚めてそう思うと、いてもたってもいられなくなった。書類の文字も上滑りして、領地仕事にまったく手がつかない。そうこうしているうちに、執務室からマテアスに追い出されてしまった。

 自室に戻り、気晴らしに湯を浴びた。彼女は託宣の相手だ。大切にしなければという思いと裏腹に、体だけが彼女をむさぼりたいと要求してくる。もう何日も顔を見ていない状態で、今、彼女に会うのは非常に危険に思えた。

 理性を失わないようにとジークヴァルトは、浴室でひとり欲を吐き出した。頭に彼女を思い描きながら――

 彼女を汚しているようで、自分に向けられる感情は嫌悪ばかりだ。
 だが、まるであの日の続きを夢想するかのように、彼女を求める邪な思いは止まらない。

 そんな時に、いきなりジークハルトの思念がねじ込まれてきた。
 慌てて服を身に纏い、ジークヴァルトは守護者の力に身を任せた。次に見えた光景は、馬車の中にいた彼女の小さな背だ。

 柔らかい肢体を抱き込むと、ふわりといい匂いがした。熱が(こも)ったままの体が、すぐに反応しそうになる。濡れた髪の雫が落ちて、彼女が声を上げなかったら、そのまま暴走していたかもしれない。
 すぐに馬車を降りた。一度、冷静にならないと、彼女のそばにはいられない。その体を(しず)めるように、強い風がジークヴァルトの熱を奪っていった。

 長い息を吐いて、ジークヴァルトは再び寝返りを打つ。その時、彼女の気がわずかに跳ねた。反射的に飛び起きる。くしゃみでもしたのだろう。すぐに落ち着いた気配を確かめると、ジークヴァルトは小さく安堵の息を漏らした。

『ねえ、ヴァルト。そんなにため込んでいるなら、リーゼロッテの所に行ってくれば? そこにも扉あるんだし』

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