寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 めずらしく近くで浮いていた守護者に、ジークヴァルトは顔をしかめた。この壁を隔てた隣は彼女の寝室だ。すぐそこに隠し扉があって、行こうと思えばいつでも行ける。だが、ジークハルトの言葉を無視して、寝台に再びその身を沈めた。

『なんかさ、そう悶々(もんもん)とされると、こっちもつらいんだけど』

 守護者と託宣を受けた者は、その意識がつながっている。ジークヴァルトが見知ったことから、今何を思っているかまで、ジークハルトにはありのままに伝わっていた。

「そう思うならどこかへ行け」
 心底嫌そうにジークヴァルトは答えた。最近では近くにいることもなかった守護者は、今夜はなぜかそこにいる。

『昼間に結構力使ったからさ、今離れる気力はないな~。アレ、どこまでの距離できるんだろ?』

 ジークハルトは常に、ジークヴァルトの元へと戻ろうとする引力を感じている。植え付けた不信感から、そのそばを離れることはできるようにはなったが、それでもこの絆が切れることはない。
 本来ならば、ジークハルトが引き戻されるところを、逆にジークヴァルトを自分の元にひっぱってくるのだ。引力と、ジークヴァルトが守護者の元に行きたいという、強い思いがシンクロしてこそ、為せる荒業(あらわざ)だった。

『そんなに我慢することはないと思うけど。体に悪いよ?』
「駄目だ。誓約を破るわけにはいかない」
『ああ、ダーミッシュ伯爵と約束したんだっけ。こっちに来させる代わりに、絶対に婚前交渉は行わないって』
「分かっているなら黙っていろ」
『真面目だなぁ。そんなの、言わなければ分からないだろうに。って、最もあのリーゼロッテじゃ、顔に出てすぐにバレそうだね』

 楽しそうに笑うジークハルトを睨みつけて、ジークヴァルトは寝台から身を起こした。上着をはおり、そのまま部屋を出ていく。

『いってらっしゃい。とりあえず、オレはここでリーゼロッテを見張ってるよ』

 宙であぐらをかいたままひらひらと手を振って、ジークハルトはその不機嫌な背を見送った。

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