寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「ご報告申し上げます」

 王の前で片膝をつき、カイは頭を垂れた。人払いがされた謁見(えっけん)室は、カイとディートリヒ王、そしてハインリヒ王子の三人だけだ。

「昨年見つかった新たな託宣のあざを持つ少女が、この度確認できました。彼女はウルリヒ様の血を引くものと思われます」
「その者とは?」
「少女の名はルチア。ウルリヒ様とアニータ・スタン伯爵令嬢の間に生まれたお子のようです」
「新たな託宣はふたつあったはず。そのうちのどちらなんだ?」

 ハインリヒの問いに、カイは一度言葉を詰まらせた。

「……彼女の受けた託宣名はリシル。異形の者に命奪われし定めの者にございます」
 努めて冷静に口にする。龍の託宣が違えられたことはない。ルチアはいずれ、異形の者に(あや)められる運命だ。

「して、その者は今どうしている?」
「彼女は今、ラウエンシュタイン公爵代理の庇護の(もと)、ダーミッシュ領で暮らしております」
「公爵代理……? リーゼロッテ嬢の父親か?」

 ハインリヒは意外そうな顔をした。

「アニータ嬢が既知の仲である公爵代理に助けを求めたようです。そのアニータ嬢は、一か月ほど前に逝去しています。王、託宣を受けた少女の処遇はいかがなさいましょう」

 カイがディートリヒ王を見上げる。その金色の瞳は、いつでも遠くを見つめているかのようだ。

「ラウエンシュタインに任せておけばよい」
「ですが……!」

 ルチアは王族の血を引く者だ。受けた託宣の内容を考えても、王家で保護するのが筋だろう。

「よい。すべては龍の思し召しだ」

 そう言ってディートリヒは玉座から静かに立ち上がった。青いマントを翻して去っていく。

「カイ・デルプフェルト。そなたはそばでその者を見守るがいい」

 去り際にそう残して、王は扉の向こうに消えた。残されたハインリヒ王子と目を合せる。カイがかいつまんでルチアの経緯を話すと、ハインリヒは神妙な顔つきとなった。

「カイ……何かあったら力になる。遠慮なく言ってくれ」
「お心づかい、感謝いたします」

 ハインリヒに向かって、カイは力ない笑顔を向けた。

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