寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 立ったまま、食い入るようにそれに目を通していたアンネマリーは、途中ではっと我に返った。ハインリヒとは毎晩のように体をつなげている。癒すどころかハインリヒに翻弄されて、アンネマリーはいつもされるがままだ。
 体が火照ってくるのを感じて、慌ててその日記を本棚の奥に押し込んだ。

 気を取り直して、もっと日々の公務に役立ちそうなものを探す。いちばん端の真新しそうな日記を見て、アンネマリーは驚きの声を上げた。
「これ、アランシーヌ語で書かれているわ」

 アランシーヌは鎖国を貫くこの国が、唯一国交を持つ隣国だ。手に取って中を確かめると、そこには綺麗なアランシーヌの文字で日記が綴られていた。
 それを手に、一度居間へと戻る。ソファに座り、アンネマリーはゆっくりと目を通していった。

(この日記は、セレスティーヌ前王妃……ハインリヒ様のお母様が書いたものだわ)

 セレスティーヌは隣国の王女だったと聞く。その縁もあって第二王女のテレーズは、アランシーヌの王族へと嫁ぐこととなった。セレスティーヌは病弱で、ハインリヒが幼い時に亡くなっている。故人の記憶を盗み見ているようで、アンネマリーは後ろめたい気持ちになった。

《九月九日、晴れ、この国に来てからもう一か月。まだ秋も間もないのに、この寒さはどういうことなのかしら。真冬が来たら、わたくしはきっと氷漬けね》

 ふいに背後からハインリヒの声が聞こえた。流暢(りゅうちょう)なアランシーヌ語で、ちょうどアンネマリーが開いているページの日記を読み上げていく。

「ハインリヒ様!?」
「一応声はかけたけど、驚かせてしまったね」

 ソファの背をまたいで、アンネマリーの後ろに無理やりに座ってきた。時々こんなふうにハインリヒは、すごく子供っぽいことをする。それは自分にだけ見せる姿だと思うと、アンネマリーはくすぐったい気分になった。

 少し前にずれたアンネマリーを抱え込んで、そのうなじに口づけを落とす。
「ん……ハインリヒ様、そこは駄目です」
 龍のあざがある場所に触れられると、否応なしに体が熱を持ってしまう。

「仕方ないよ、アンネマリーが可愛いのが悪い」
 そう言って、再びうなじに口づける。肩をすくませて逃げようとする体を、ハインリヒはぎゅっと背後から抱きしめた。

「それにアンネマリー、また様がついてるよ」
「あ……」

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