寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「お嬢様は今、お休みになられています。移動の疲れが残っているようですので、今日の所はご遠慮していただきたいのですが……」
「それはいけませんね。ゆっくりお休みになられますよう、リーゼロッテ様にお伝えください。(あるじ)にもその(むね)を話しておきます」
「……あの、マテアス」

 その場を辞そうとしたマテアスに、エラは思わず声をかけた。リーゼロッテの部屋の前の廊下で、周囲に人気がないのを確かめる。

「ツェツィーリア様のご婚約のお相手は、一体どなたなのですか?」
「それはわたしには分かりかねますねぇ。何しろ相手のお名前を聞く前に、ツェツィーリア様はレルナー家を飛び出してきたそうなので」
「そうですか……」

 不安そうに視線を下げたエラを、マテアスは静かに見やった。

「エーミール様がご心配ですか?」
「えっ?」

 エラははっと顔を上げた。図星をつかれて、動揺したように目が泳ぐ。ウルリーケの見舞いに行ったとき、エーミールがツェツィーリアの婚約者候補なのだと知った。このタイミングでの婚約成立となると、そのことが否応なしに頭をもたげてくる。

「確かにツェツィーリア様の婚約者候補に、エーミール様は上がっておられたようですね。ですが、他にも有力候補は幾名かいらっしゃいました。まだそうと決まったわけではありませんよ」
「そう……ですね」

 それでも不安げな瞳で見つめ返すエラに、マテアスは苦笑いを向けた。

「ウルリーケ様のご容態が安定せず、今、グレーデン家は難しい立ち位置となっています。そんな時にエーミール様と婚約するメリットは、レルナー家にはあまりないのでは。少なくともわたしはそう思いますよ」
「お話中、失礼いたします」

 ふいにさえぎるように声がかけられた。

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