寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「ああ、グロースクロイツさん、今、ツェツィーリア様のお部屋をご用意いたしておりますので、もうしばらくお待ち頂けますか?」
「今回はわたしまでお世話になることになり、お手間をかけさせて申し訳ございません。何せ、侍女のひとりも連れずにやって来てしまったもので。ツェツィーリア様には本当に困ったものです」
「お付きの侍女は、いてもいなくても同じだと思いますが」

 皮肉交じりにエラは言った。前回の滞在時に、ツェツィーリアをリーゼロッテに押し付けたまま、お付きの侍女は公爵家の使用人相手に遊び惚けていたのだ。

「おや? それはこちらに不手際があったようですね。早急に調査をいたします」
「そうしてください。わたしにこんなことを言う筋合いはないですが、レルナー家はもっとツェツィーリア様を大事にすべきではないのですか?」
「エラ様、それ以上は」
「いいえ、忠言(ちゅうげん)耳に逆らうとはまさにこのこと。そのお言葉、胸に刻みつけたく存じます」

 マテアスに制されたエラに、グロースクロイツはゆっくりと腰を折った。

「ツェツィーリア様をお迎えに参ったのですが、おそらくわたしの言うことなど聞き入れてはもらえないでしょう。今夜はリーゼロッテ様にお任せしてもよろしいですか?」
「お嬢様はもとよりそのおつもりです」
「これはこれは、寛大なご対処、痛み入ります。レルナー家で婚約の顔見せが行われると思いますので、今回はすぐにでも迎えが来ると思います。それまではツェツィーリア様のこと、どうぞよろしくお願いいたします」

 飄々(ひょうひょう)と言ってグロースクロイツは、来た時と同様静かに去っていった。

「エラ様、何かお困りのことがありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
「ありがとう、マテアス」
「では、わたしもこれで失礼いたします。リーゼロッテ様には、お大事になさるようお伝えください」

 マテアスの背を見送ったエラは、自分の顔をぱんと叩いた。
 今はリーゼロッテの事だけを考えよう。そのために自分はここにいる。そう気持ちを切り替えて、エラは侍女の顔に戻った。

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