寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
◇
「旅芸人ですか?」
「ああ」
執務室のいつものソファに腰かけて、リーゼロッテはこてんと首を傾けた。ここに来るのは久しぶりだ。というより、ジークヴァルトの顔自体、ここ数日ずっと見てはいなかった。
なんとなく気まずくて、ツェツィーリアにかこつけて避けまくってしまった。しかし、呼び出しを延々と断り続けることもできずに、今ここに座っている。
「わたくし知っているわ。市井の者が劇をやったりするのでしょう?」
「まあ、劇を」
いつもは並んで座るふたりの間に、ツェツィーリアがすっぽりと収まっている。おかげでジークヴァルトとの距離が遠い。ほっとしている自分がいて、それがなんだか悲しくなってくる。
「リーゼロッテ様はなかなかお出かけにはなれないでしょう? 気晴らしになればと、旦那様がその一行を呼ぶ手配をなさってくださいました」
「お兄様にしては気が利くのね。わたくし、一度見てみたかったのよ」
「いえ、ツェツィーリア様のためではなく……」
「よかったですわね、ツェツィーリア様」
「ええ、ありがとう、ヴァルトお兄様!」
満面の笑顔で見上げるツェツィーリアに、ジークヴァルトは「ああ」とそっけなく頷いた。
「いや、ですからこれは旦那様がリーゼロッテ様のために」
「これ、おいしいわ」
「ふふ、ツェツィーリア様、お口についていますわよ」
菓子を頬張るツェツィーリアの口元を、リーゼロッテがハンカチでやさしくぬぐっていく。ツェツィーリアがいるとジークヴァルトと会話をしなくて済む。リーゼロッテにしてみれば、その存在がありがたく感じられた。
「旅芸人ですか?」
「ああ」
執務室のいつものソファに腰かけて、リーゼロッテはこてんと首を傾けた。ここに来るのは久しぶりだ。というより、ジークヴァルトの顔自体、ここ数日ずっと見てはいなかった。
なんとなく気まずくて、ツェツィーリアにかこつけて避けまくってしまった。しかし、呼び出しを延々と断り続けることもできずに、今ここに座っている。
「わたくし知っているわ。市井の者が劇をやったりするのでしょう?」
「まあ、劇を」
いつもは並んで座るふたりの間に、ツェツィーリアがすっぽりと収まっている。おかげでジークヴァルトとの距離が遠い。ほっとしている自分がいて、それがなんだか悲しくなってくる。
「リーゼロッテ様はなかなかお出かけにはなれないでしょう? 気晴らしになればと、旦那様がその一行を呼ぶ手配をなさってくださいました」
「お兄様にしては気が利くのね。わたくし、一度見てみたかったのよ」
「いえ、ツェツィーリア様のためではなく……」
「よかったですわね、ツェツィーリア様」
「ええ、ありがとう、ヴァルトお兄様!」
満面の笑顔で見上げるツェツィーリアに、ジークヴァルトは「ああ」とそっけなく頷いた。
「いや、ですからこれは旦那様がリーゼロッテ様のために」
「これ、おいしいわ」
「ふふ、ツェツィーリア様、お口についていますわよ」
菓子を頬張るツェツィーリアの口元を、リーゼロッテがハンカチでやさしくぬぐっていく。ツェツィーリアがいるとジークヴァルトと会話をしなくて済む。リーゼロッテにしてみれば、その存在がありがたく感じられた。