寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 この状況に危機感を覚えたマテアスが、口に物を入れるしぐさで指令を出した。ここ数日のノルマが溜まったままだ。ここはあーんで強行突破するしかない。
 それを見たジークヴァルトが、おもむろに菓子をつまみ上げた。それをリーゼロッテへと差し出そうとする。

「あー……」
「あら、お兄様。今日はやけに気が利くのね」

 横からさっと奪い取ると、ツェツィーリアはその菓子を自分の口に放り込んだ。

「ふふ、またお口についておりますわ」
 微笑ましそうにリーゼロッテが口元をぬぐう。そうこうしているうちに、エラの迎えが来てしまった。

 リーゼロッテが執務室を後にして、マテアスが拳をぐっと握りしめる。
「思わぬ妨害が……」

 レルナー家から一向に迎えが来る気配はない。それをいいことに、ツェツィーリアはリーゼロッテに四六時中べったりだ。

「旦那様、そろそろレルナー家に連絡をなさっては」
「いい。迎えが来るまでいさせてやれ」
「はぁ……旦那様はツェツィーリア様にお甘いですねぇ」

 その時、ジークヴァルトがはっと顔を上げた。天井を睨み、意識を集中する。いつの間にか宙に現れた守護者(ジークハルト)が、その空間を同じようにじっと見上げた。

『最近、(ねずみ)がうろちょろしてるね』
「ああ、わかっている」

 気配がかき消えたことを感じつつ、ジークヴァルトは低く答えた。

「旦那様?」
「いや、何でもない」

 不思議そうに首をひねるマテアスを、ジークハルトはおもしろそうに見やっていた。

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