寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「フーゲンベルクの青き(たて)め。いつもいいところで邪魔をしおって」

 飛ばしていた意識を体に戻すと、ミヒャエルは忌々し気に舌打ちをした。

「旅の芸人を呼びつけ興を催すなど、いかにも無能な貴族が考えそうなことだ」
 鼻で(わら)いながらも、ふと思う。ともすれば、これは絶好の機会なのではないか?

 深い呼吸を三度して、ミヒャエルは再び深い瞑想に入った。

(くれない)の女神よ……どうか、どうか我が身にお力を!)
 命を削るかのごとくに、強く、強く、乞い願う。

 時間も呼吸も忘れたころ、前触れなく下から湧き上がるような熱が広がった。その熱はミヒャエルを焦がしながら、(たぎ)るように全身へ侵食していく。玉のような汗をかき、ミヒャエルの口から苦悶のうめき声が漏れて出た。

 無慈悲に体の内部を駆け巡る灼熱は、やがてすべてが一所(ひとところ)に集約していった。その熱が、完全に我が身の一部となった時、ミヒャエルはようやくその瞳を開けた。

「ふ……はははははははっ」

 動かなかった右手を掲げ、ミヒャエルは狂気の瞳でその指先を見た。異様に伸びた人差し指の爪だけが、禍々しいほどの紅玉の光を宿している。

(くれない)の女神よ……!」

 感極まり、熱の籠った声でミヒャエルは叫んだ。
 女神は再び力を与えてくれた。この国に、(くい)を打ち込むために。その望みを叶えられるのは、選ばれたこの自分だけなのだ。

 高揚感だけが支配する。

「今度こそ、目にもの見せてくれる。まずは、青き盾――お前からだ」

 爪先が妖しい光を放ち、陽炎(かげろう)のごとく揺らめいた。

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