寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「いいえ、なんでもございません。わたしはそろそろリーゼロッテ様の元へ戻ろうかと思いまして……」
「ああ、もうそんな時間か。そうだ、エラ嬢。よかったらこれを受け取ってもらえないか?」

 差し出された袋を開けると、中には小さなイヤリングが入っていた。緑の石がついた可愛いデザインのものだ。

「これをわたしが頂いてよろしいのですか?」
「リーゼロッテ様が同じものをお求めになっていた。揃いで持っていたらエラ嬢もよろこぶかと思ってだな」

 大きな指をもじもじ突き合わせるヨハンに、頬を染めながらエラは笑顔を向けた。

「お心遣いありがとうございます。とてもうれしいです」
「いや、オレもエラ嬢にはいつもよくしてもらっている。ほんの感謝のしるしだ」
「わたしの方こそ、たくさん学ばせていただいております。ヨハン様はわたしの刺繍のお師匠様ですから」

 尊敬のまなざしを向けるエラに、ヨハンはわちゃわちゃと手を振った。

「師匠などと大袈裟なっ」
「いいえ、ヨハン様はわたしの知らない技術をたくさんお持ちですし、そうお呼びするのがふさわしいです」

 そんなやり取りを、周囲の者が注意深く伺っていた。ヨハンに賭けた者はその背に声援(エール)を送り、そうでない者はハラハラとふたりの成り行きを見守っている。

「え、エラ嬢! 実は我がカーク家には、代々伝わる秘伝の刺繍の(わざ)があるんだがっ」
「秘伝の刺繍!?」

 そのパワーワードにエラの瞳が輝いた。期待に満ちた目で、前のめりでヨハンの顔を見上げてくる。

「そう、秘伝の刺繍だっ。生憎(あいにく)誰彼(だれかれ)なく教えることはできないんだが、も、もしっ、エラ嬢がオレの、つ、つ、妻になってくれるなら、すべての技を君に教えてやれるんだがどうだろうかっ」

 てんぱったままヨハンは大声で叫んだ。勢いだけで飛び出した突然のプロポーズに、周囲の者が固まった。息を詰め、みながエラの返答に耳をそばだてる。

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