寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「……それでは教えていただけないのも仕方がありませんね。リーゼロッテお嬢様の侍女として、わたしは一生結婚するつもりはありません。残念ですが、諦めるよりほかないですね。いつかヨハン様の奥様になられる方が、うらやましい限りです」

 悪気なくあっさりと返されたヨハンが、見ていて気の毒なぐらい涙目となった。

「そ、そうだなっ、残念だが、仕方がないなっ」
「はい、仕方ないですね」

 にっこりと頷いたエラは、求婚されたこと自体気づいていない様子だ。だが、それはわざと(かわ)したようにも見えて、エラを落とすのは一筋縄ではいかないと、その場にいた者たちが目を見合わせた。

 ニコラウスに続き、エラ争奪杯(そうだつはい)からヨハンが脱落した。そのニュースは電光石火で公爵家内へと伝わることとなる。残るはエーミールか、マテアスか。最近では、デルプフェルト家のカイや、女好きのユリウスの名も挙がっていた。

 そんな雰囲気をしり目に、エラは申し訳なさそうにヨハンに付け加えた。

「それにわたしは、子爵家の女主人を務められるような器ではありませんし、エデラー家は近いうちに男爵位を王に返上する予定です。ヨハン様にはもっと相応(ふさわ)しいご令嬢がおられるはずです」
「ははは……だといいんだが」

 力なく笑うヨハンに、同情の視線が集まった。その時、ヨハンの表情が一変した。はっと顔を上げ、屋敷の方へと視線を向ける。

「ヨハン様?」
「空気が変わった……」

 低く真剣な声音に、エラの顔が青ざめる。

「何かあったのですか?」
「わからない。だが、屋敷の奥によくない気を感じる。この広場は大丈夫なようだが」

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