寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 きゅるんとした瞳と目が合って、リーゼロッテはぽかんと口を開けた。虚ろだった目が輝いて、やたらと目力を発揮している。

「きゃーっ、この役立たずっ!!」
「申し訳ございませんっ」

 瞳をきゅるんきゅるんさせながら、男は短剣を振りかざして追ってくる。手と手を取り合って、再びふたりは霧の中を走り出した。

「とりあえず、わたくしの部屋まで頑張ってくださいませ!」

 部屋には日々溜めた涙が置いてある。それを振りかければ、力の強い異形でも浄化ができるかもしれない。それにクローゼットを通れば、ジークヴァルトの部屋にも行けるはずだ。

 しかし、次第にツェツィーリアの足が鈍くなる。息を切らして、これ以上走るのは限界の様子だ。
 足をもつれさせ止まってしまったツェツィーリアを、咄嗟に壁際でかばった。目の前へと迫る男を、なすすべなくリーゼロッテはただ見上げた。

 振りかぶられた短剣を頭上に感じ、リーゼロッテはぎゅっと目をつぶった。ツェツィーリアだけは守らなければ。だが、自分が倒れたらどうなってしまうのだろう。

 その時、男の横から何か大きな力が放たれた。吹き飛ばされた男は奥へと転がり、そのまま霧の中へと沈んでいった。

「グロースクロイツ!」
「おや、ご無事でしたか、ツェツィーお嬢様」

 なんだか残念そうな口調に、ツェツィーリアは間髪入れずにその足を踏みつけた。

「来るのが遅いのよ! この役立たずっ」
「おおう! その小さなお御足(みあし)でピンポイントで()まれると、このグロースクロイツ、なんだか病みつきになりそうです」
「気持ち悪いこと言ってないで、今すぐこの場を何とかなさい!」

 だんっと一歩踏み込むと、グロースクロイツは慌てて長い足を引っ込めた。

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