寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「おおう、わたしとしたことが。ツェツィー様の大事な方が、わざわざ会いに来てくださったのですよ。それでお嬢様をお探ししていたのです」

 ツェツィーリアを下に降ろすと、その背をそっとルカの方へと押し出した。半歩前に出たツェツィーリアは、ルカの水色の瞳と目を合せる。

「あ……」

 胸元でその瞳と同じ色をしたペンダントが揺れた。その水色をぎゅっと握りしめて、ツェツィーリアはいきなりルカのいる逆方向へと走り出した。

「ツェツィー様!」

 ルカの声を背に、ツェツィーリアはパニック状態となっていた。ルカの瞳のペンダント。リーゼロッテを置き去りにしてきた罪悪感。そして、義父が決めてしまった婚約者の存在――

 ツェツィーリアはどうしたらいいのか分からなくなって、闇雲に廊下を走り続けた。だがすでに体力も限界で、すぐにルカに追いつかれてしまう。

「逃げないで、ツェツィー様」

 悲しそうに言って、ルカはツェツィーリアの手をやさしく掴んだ。それでも逃がさないようにと、その腕に閉じ込めてくる。

「駄目よ……だってわたくし……」

 息も絶え絶えに、ようやくそれだけを口にした。自分の婚約者は決まってしまった。ルカに触れてもらう資格など、もう自分にはこれっぽっちもないのだから。

「そんなにも、わたしの求婚は嫌だったのですか?」
「そんなことない! だけどわたくしの婚約者は、お義父様が決めてしまったもの!」

 悲しそうに言ったルカを、ツェツィーリアは反射的に見やった。

「え? ではわたしのことが嫌でお逃げになったわけではないのですか?」
「だからそう言っているでしょう! わたくしもルカが好きよ! でもわたくしにはもう婚約者がいるんだもの!」

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