寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 瘴気の奥からマテアスが飛び込んできた。男のひとりを吹き飛ばし、すぐさまジークヴァルトと背中合わせに並び立つ。

「できるだけ怪我人を出すな」
「そんな余裕を言っている場合ではなさそうですよ」

 言いながらふたりは同時に動き出した。緩慢な攻撃を躱し、お互いの動きをフォローするように力を放つ。引き付けるようにマテアスが相手の動きを誘導するも、操られた者たちは頑なにジークヴァルトにのみ攻撃を仕掛けていった。

「どうやら目的はヴァルト様、あなた様だけのようですね」
「ああ」

 肩で息をしながら身構える。ジークヴァルトを中心に、周囲の瘴気はその濃度を増していく。まるで圧縮するかのように、その範囲を狭めているように感じ取れた。

「このままでは被害が広がる。オレは屋上でヤツらを迎え撃つ。マテアス、お前はこの中にいる人間すべてを安全な場所に避難させてくれ」
「しかし……」
「問題ない。オレは死ぬことはない」

 その言葉にマテアスの顔が(ゆが)められた。

「その言いようは気に入りませんが、お言葉には従いましょう。リーゼロッテ様を最優先にして、事に当たらせて頂きます」

 言うなり、マテアスはため込んでいた力を目の前に放った。取り憑かれた者たちが(ひる)んだ隙に、ジークヴァルトが走り出す。

「あまり無茶はなさらないでくださいよ!」

 異形を()き止めながらも、マテアスはその背に大きく叫んだ。ジークヴァルトが霧の中に消えると、男たちはマテアスから興味を失ったように、ふらふらと明後日(あさって)の方向へと歩き出す。

 その動きを止められずに、男たちの姿を瘴気の中へと見送った。息をつき、(ひたい)に浮かんだ汗をぬぐいとる。リーゼロッテの姿を求め、マテアスは霧の中をひとり進んでいった。

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