寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「あなたには恨みはないけれど、おとなしく天に還ってちょうだい」

 蓋を開け、リーゼロッテは小瓶を横一閃(よこいっせん)に一気に振るった。涙は男の体にまっすぐかかり、次の瞬間、線上に緑の閃光(せんこう)がほとばしった。

 咆哮(ほうこう)を上げ、男から黒い異形が浮き上がる。かと思うと、どこかへ吸い込まれるように、一瞬でその場から消え去った。
 支えを失ったかのように、男がその場に崩れ落ちる。しばらく様子を伺うも、再び起き上がる様子はなかった。

「お嬢様、ご無事ですか!?」
「ええ、今そちらに行くわ」

 手探りで声がした方へ歩み寄ると、エラは床に座り込んだままだった。リーゼロッテが手を差し伸べるが、立ち上がろうとした瞬間、エラの顔が大きくゆがんだ。

「いたっ」
「もしかして足を痛めたの?」

 見るとエラの足首が()れあがっている。青ざめるリーゼロッテに、エラは安心させるように笑顔を向けた。

「先ほどもみ合った時に少し痛めてしまったようです。ただひねっただけですので、問題ありません」

 腫れた足をスカートで隠すと、エラはリーゼロッテの顔を見上げた。

「ですが、これでは満足に歩けそうにありません。この先にヨハン様が待っていると思います。申し訳ないのですが、お嬢様が呼んできていただけませんか?」
「ええ、わかったわ」

 少し迷ったあと、リーゼロッテは頷いた。

「すぐに助けを呼んで戻ってくるわ。これ、念のために渡しておくから。もし、さっきのように誰かが襲ってきたらすぐに振りまいて」
「いけません! こちらはリーゼロッテ様がお持ちになっていてください」

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