寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 足をかばいながら、エラは何とか立ち上がった。激痛が走るが、このままぼんやりと座っているわけにもいかない。壁伝いにリーゼロッテの向かった方向へと進んでいく。人の気配のしない廊下は、不気味なくらい静まり返っていた。

 バランスを崩しそうになり、壁に手をつき事なきを得る。ほっとするのも束の間、その壁に()した影に気がついて、エラは恐る恐る振り返った。

「――……っ!」

 振り下ろされた剣を咄嗟に避ける。いつの間にか背後に立っていた男は、虚ろな瞳のまま再びエラに向かって剣を振り上げた。()けきれない。そう感じてぎゅっと目を閉じる。その時、男が真横に吹き飛んだ。

「エラ様、ご無事ですか!?」
「マテアス……!」

 その姿に安堵するも、倒れたはずの男が再びマテアスの背後に迫る。エラが悲鳴を上げると、マテアスは男を振り向きざまに()り上げた。

「エラ様はそこを動かないでくださいっ」

 言うなりマテアスは男の(ふところ)に飛び込んだ。(こぶし)に力を溜めて、素早く腹に叩きつける。だが、よろめきながらも男はなかなか倒れない。おぼつかない手つきで剣を振り上げ、再びマテアスに襲い掛かってきた。

 紙一重でその尖刃(せんじん)を避けると、胸、腹、腹と、マテアスは連打を繰り出した。素早いコンボに浮き上がった体を、最後に回し蹴りで吹き飛ばす。

 壁に叩きつけられた男は、壊れた人形のように再びゆらりと立ち上がろうとする。マテアスは取り出したロープを素早く巻き付け、男の動きを封じにかかった。ロープに自らの力を流し込む。芋虫のようにもがいていた男は、しばらくすると床に転がったまま動かなくなった。

 それを確かめると、マテアスは壁際でへたり込んでいるエラに駆け寄った。

「エラ様、お怪我は?」
「あの男は……」
「あの男は異形に操られているだけです。死んではいません。大丈夫です」

 安心させるように言うも、エラの腫れた足を見て、マテアスはその場に片膝をついた。

「触れること、お許しください」

 懐から取り出した包帯で、エラの足首を固定していく。顔をゆがませたエラは、それでもおとなしくマテアスの行為を受け入れた。

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