寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「お立ちになれますか?」

 (うなず)くエラの手を引いて立ち上がらせる。バランス悪くよろめくエラを引き寄せて、マテアスはその腰をしっかりと支えた。

「わたしの事よりもリーゼロッテお嬢様を」
「リーゼロッテ様はどちらに? アデライーデ様と一緒におられたはずですが」
「お嬢様はおひとりでした。先ほど別の男に襲われて、ここは危険だからとヨハン様の元へと向かっていただきました」
「ヨハン様の元に?」
「はい、ヨハン様は執務室を過ぎたあたりの廊下にいらっしゃるはずです」

 そこでヨハンと別れ、エラはここまでやってきた。今までの経緯を話すと、マテアスは口元に手を当て考え込んだ。エラを残して行くこともできないが、リーゼロッテの安否の確認は最優先だ。

「マテアス!」

 アデライーデの声が響いた。煩わしそうにドレスの(すそ)(ひるがえ)し、瘴気の中からふたりへと近づいてくる。

「リーゼロッテはどこ?」
「お嬢様は先に執務室の方へと向かわれました」

 エラの説明にアデライーデは頷いた。

「リーゼロッテの事はわたしに任せて。マテアスはこのままエラについててちょうだい」

 アデライーデはそのまま霧の中へと消える。その背を見送ると、マテアスはすぐさまエラを横抱きに抱き上げた。

「つかまっていてください。ここはまだ危険です。一刻も早く出たほうがいい」

 エラの体を抱え直すと、マテアスは瘴気の中を進んでいく。戦闘続きでマテアスの体力は限界を超えていた。それを感じたエラは、その腕から降りようと身をよじる。

「降ろしてください。自分で歩けます」
「時は一刻を争います。エラ様をかばいながら戦闘になるのは()けたいんです。どうかご協力を」

 そう言われてエラはおとなしく動きを止めた。

「エラ様は羽のように軽くて、飛んで行ってしまわないかと心配になりますねぇ。よろしければ首に手をかけていただけると、わたしも安心してお運びできるのですが」

 (ひたい)に汗をにじませながらマテアスが言う。しがみついていた方が、マテアスも運びやすいのだろう。そう思いいたって、エラはその首筋にぎゅっと抱きついた。

「重いでしょう? ごめんなさい」
「いいえ。わたしにしてみれば役得ですから」

 おどけたように言うマテアスに、エラの口元がほころんだ。

「ありがとう、マテアス」

 耳元で囁くと、マテアスは「本当に役得ですねぇ」とつぶやいた。

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