寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 エラの示した方向へとひた走る。赤黒い瘴気の先に、アデライーデはリーゼロッテの緑を感じた。

「ちょっと! わたしの可愛いリーゼロッテに何してくれてるのよ!!」

 渾身(こんしん)の力を手のひらに溜め、前方へと打ち放つ。一筋の青い光とともに、周囲の瘴気が吹き飛ばされる。(つか)()に晴れた霧の合間から、壁際に追いつめられるリーゼロッテの姿が見えた。
 白い影が、その(ひたい)へと穢れた指先を突き付けている。爪に灯る禍々しい(くれない)を前に、リーゼロッテは恐怖に打ち震えていた。

「わたしのリーゼロッテに汚い手で触るんじゃないわよ!」

 俊足で駆け寄り、力を込めた拳を繰り出した。白い影は揺らめきながら、その攻撃をすり抜けていった。逃がすまいと、続けざまに力を放つ。スカートがめくれることも(いと)わずに、アデライーデは見惚れるほどの美しい軌道で、蹴りをひとつ披露した。

「ちっ、逃げられたわね」

 影が掻き消えた瞬間に、周囲の瘴気が流れを変える。

「きゃあっ」
「リーゼロッテ!」

 渦巻くように瘴気がリーゼロッテを取り巻いた。アデライーデは無理やりその瘴気をかき分けて、リーゼロッテの手を強く握りしめた。

「怪我はない?」
「はい……アデライーデ様」

 涙目で震えながらもリーゼロッテは強く頷いた。背後に人の気配を感じて、後ろ手にリーゼロッテを庇い、アデライーデは振り向いた。

「これはまた大人数ね」

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