寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 虚ろな目をした劇団員が、老若男女問わず廊下にずらりと並んでいた。ふたりを囲い込むように、ゆらりゆらりと距離を縮めてくる。

「リーゼロッテ……すぐそこに執務室の扉があるわ。そこまで走ることはできそう?」

 先を見やり、リーゼロッテは小さく頷いた。合図と共に一心不乱に駆け出した。憑かれた者たちの合間を縫って、脇目もふらずに扉を目指す。

 援護するように、アデライーデがその後を続く。迫りくる攻撃を(かわ)し、自身も執務室へと飛び込んだ。素早く扉を閉めて鍵をかける。すぐさま扉が多くの人間によって連打され始めた。(きし)むように扉が震え、こじ開けられるのも時間の問題だ。

「リーゼロッテ、こっちよ」

 手を引いて部屋の奥へと(いざな)った。いつもマテアスが座る執務机の後ろの本棚が、不自然にその場所を変えている。

「ここから屋上に出られるわ」

 本棚の裏側を見やると、そこには昇り階段が続いていた。中は暗く、どこまで続いているかは見渡せない。

「上にジークヴァルトがいるはずだから」
「ヴァルト様が?」
「ええ。あなたはヴァルトの元へ行った方がいい。ここはわたしが食い止めるから」
「……わかりました」

 自分がそばにいると、周囲の者まで巻き込んでしまう。リーゼロッテは頷いて、薄暗い階段へと足を踏み出した。

「中は真っ暗だけど、まっすぐ昇れば屋上にたどり着くから」

 吸い込まれるように暗闇へと消えていくリーゼロッテを、アデライーデはその言葉で見送った。

「さあ、まとめてかかってらっしゃい」

 両の拳をぼきりと鳴らす。壊されるように開け放たれた扉に向かって、アデライーデは不遜な笑みを向けた。

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