寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 吹きすさぶ強風の中、ジークヴァルトは苦戦を強いられていた。何も(へだ)てるものがない屋上は、身を隠す場所さえ見当たらない。

 幾人目かの男を、力を込めた拳で吹き飛ばす。ある程度の怪我を負わせても、操り人形のように何度でも立ち上がってくる。そこかしこで転がっているのは、手加減を加えられずに倒れた者たちだ。早く手当てをしないと、命にかかわる者もいるかもしれなかった。

 丸腰の男がふたりと、短剣を手にした女がひとり。肩で息をしながら、残りの人数を確かめる。
 早いところ片を付けて、瀕死の者の手当てをする必要がある。急を要する事態を前に、ジークヴァルトは努めて冷静に相手の動向を見守った。

 男がひとりつかみかかってくる。城壁ぎりぎりまで押しやられて、ジークヴァルトの背が打ち付けられる。それを力技で跳ねのけて、男の腕をねじり上げた。
 そのまま組み伏せ、腕を限界まであらぬ方向へと移動させる。男の絶叫と共に異形が咆哮(ほうこう)をあげ、ジークヴァルトは容赦(ようしゃ)なくそれを青の力で(はら)っていった。別の男の気配を感じて、すぐさまその場を飛びのいた。

「ジークヴァルト様っ!」

 悲鳴のようなリーゼロッテの声が響いて、ジークヴァルトに一瞬の(すき)が生まれた。つかみかかってきた男ともつれあいながら、ジークヴァルトは床の上を転がっていく。なんとか男を振り払い、リーゼロッテをこの腕の中へと収めた。

「どうしてここに来た」
「アデライーデ様に言われてわたくし……」

 足手まといになることを悟ったのか、リーゼロッテは青ざめた顔を向けてくる。彼女の長い髪が、強い風に(さら)われるように舞い上がった。

「いい、お前はここを離れるな」

 石畳(いしだたみ)の床に手をつくと、リーゼロッテを中心に青の円が描かれた。

「絶対にそこを動くなよ!」

 迫りくる男に体当たりをして、リーゼロッテから遠ざけていく。もみ合いながら急所を狙おうとしたとき、女がリーゼロッテへと短剣を突き立てるのが目に入った。

「ダーミッシュ嬢!」

 咄嗟に男を吹き飛ばし、女へ向けて力を放つ。一度は吹き飛ばされた異形の者が、さらに大きな(かたまり)となって女の体に(まと)わりついた。

 女との間に体を滑り込ませ、リーゼロッテを背にかばう。先ほどの男が再び殴りかかってきて、狭い場所での混戦が始まった。

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