寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
◇
強い風が吹く頭上には、晴れ渡った青空が広がっている。
ジークヴァルトの円から出られず、リーゼロッテはただその戦いを見守った。相手に大怪我を与えないよう、苦戦している様が見て取れる。
(ヴァルト様はまわりを巻き込まないために、ここにひとりで来たんだわ)
言われるがままに来てしまったが、自分はまた負担にしかなっていない。今はここを動かないようにするしかできない。リーゼロッテはなすすべなく、ジークヴァルトの動きをただ目で追った。
ふいに女がこちらに向けて短剣を振りかざしてくる。突然のことにリーゼロッテは自身の顔を庇うしかなかった。
「ダーミッシュ嬢!」
ジークヴァルトが立ちはだかり、その女の手首を取った。短剣を取り落とした女は、そのままジークヴァルトにつかみかかってくる。さらに男が拳を振るわせながらなだれ込む。すぐそこで繰り広げられる乱闘を、リーゼロッテは震えながら見守るしかなかった。
(こんな時、力がふるえたら……!)
母マルグリットが導いた自身の力を思い出す。湧き上がるように溢れ出た力は、今も確かにここにあるはずだ。
手のひらを重ね合わせるが、指が震えるばかりで力など微塵も集められない。焦れば焦るほど、この手から力は零れ落ちていった。
目の前でジークヴァルトが、つかみかかってきた女ともつれあう。その後ろで男が短剣を拾い上げ、陽光がその刃に反射した。
「ジークヴァルト様!」
大きく振りかぶられた短剣が、ジークヴァルトの背中に突き下ろされる。リーゼロッテは悲鳴を上げて、青の円から飛び出した。
最後の涙を闇雲に振りまいた。途端に、男から異形の影が浮きあがり、咆哮を上げて空へと消える。男は意識を失ったまま、その場に崩れるように倒れていった。
「ヴァルト様っ」
「ああ……助かった」
強い風が吹く頭上には、晴れ渡った青空が広がっている。
ジークヴァルトの円から出られず、リーゼロッテはただその戦いを見守った。相手に大怪我を与えないよう、苦戦している様が見て取れる。
(ヴァルト様はまわりを巻き込まないために、ここにひとりで来たんだわ)
言われるがままに来てしまったが、自分はまた負担にしかなっていない。今はここを動かないようにするしかできない。リーゼロッテはなすすべなく、ジークヴァルトの動きをただ目で追った。
ふいに女がこちらに向けて短剣を振りかざしてくる。突然のことにリーゼロッテは自身の顔を庇うしかなかった。
「ダーミッシュ嬢!」
ジークヴァルトが立ちはだかり、その女の手首を取った。短剣を取り落とした女は、そのままジークヴァルトにつかみかかってくる。さらに男が拳を振るわせながらなだれ込む。すぐそこで繰り広げられる乱闘を、リーゼロッテは震えながら見守るしかなかった。
(こんな時、力がふるえたら……!)
母マルグリットが導いた自身の力を思い出す。湧き上がるように溢れ出た力は、今も確かにここにあるはずだ。
手のひらを重ね合わせるが、指が震えるばかりで力など微塵も集められない。焦れば焦るほど、この手から力は零れ落ちていった。
目の前でジークヴァルトが、つかみかかってきた女ともつれあう。その後ろで男が短剣を拾い上げ、陽光がその刃に反射した。
「ジークヴァルト様!」
大きく振りかぶられた短剣が、ジークヴァルトの背中に突き下ろされる。リーゼロッテは悲鳴を上げて、青の円から飛び出した。
最後の涙を闇雲に振りまいた。途端に、男から異形の影が浮きあがり、咆哮を上げて空へと消える。男は意識を失ったまま、その場に崩れるように倒れていった。
「ヴァルト様っ」
「ああ……助かった」