寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 飛び込むように駆け込むと、その腕に抱き留められた。涙ながらに見上げると、そのままぎゅっと抱きしめられる。耳に胸の鼓動を聞いて、ジークヴァルトの無事に安堵する。確かめるようにリーゼロッテは、大きな背中に手をまわした。

 ザンっと音がして、ジークヴァルトの腕に力が入った。呼吸が(さまた)げられるほどにきつく抱きしめられて、リーゼロッテは背中のシャツを強く握った。

 次の瞬間、ジークヴァルトが片膝をついた。その体を支えようとするも、リーゼロッテも一緒に床へと崩れ落ちていく。

 ジークヴァルトの肩口に、短剣が突き刺さっている。銀色の刃がめり込むその下から、赤い液がみるみるうちに広がった。

 受け入れられないその恐怖に、悲鳴すら出てこない。愕然(がくぜん)と固まるリーゼロッテを(かば)いながら、ジークヴァルトは剣を突き立てた女に向かって渾身の力を放った。

 女が倒れたことを確認すると、ジークヴァルトは自ら短剣を引き抜いた。途端に血が()き出してくる。リーゼロッテの目の前で、赤い血はとめどなく流れ続けた。

「毒が塗ってあったようだ。少しくらい流れた方がいい」

 短剣を投げ捨て、(うめ)くようにジークヴァルトは小声で言った。

「ジーク……ヴァルトさま……」
「ああ……問題ない」

 安心させるようにリーゼロッテの髪を力なく()くと、ジークヴァルトは肩口の傷を押さえた。指の間から血が(したた)り落ちる。尋常(じんじょう)ではないその量に、リーゼロッテは知らず首を小さく振った。

 蒼白な顔でジークヴァルトは目を閉じた。どくどくと流れ出る血液に、意識が朦朧(もうろう)としている様子だった。

「ヴァルト様、ヴァルト様……」

 泣きじゃくりながら、リーゼロッテは自身の手で傷口を(ふさ)いだ。生温かい血が、指の間を流れていく。

(どうして止まらないの……!)

< 208 / 403 >

この作品をシェア

pagetop