寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 涙を(あふ)れさせながら、震える指でスカートをたくし上げた。止血の包帯のために、布を手で引き裂こうと試みる。だがドレスの生地はびくともしない。リーゼロッテはそのままスカートを傷口へと押しあてた。

 淡い水色のドレスは、みるみるうちにジークヴァルトの血を吸い上げていく。赤く染まっていくスカートに、リーゼロッテは叫びだしそうになった。

(落ち着いて! 落ち着くのよ、リーゼロッテ……!)

 言い聞かせるように心で叫ぶ。ジークヴァルトの血の気のない唇に、一刻の猶予(ゆうよ)もないことが見て取れる。

 リーゼロッテは咄嗟のようにジークヴァルトの背後に回った。体でその背を支えながら、傷のある側の鎖骨の付け根に、親指の腹をぐっと押し入れる。

「ヴァルト様、お首を少し曲げさせていただきます」

 耳元で言うと、その(まぶた)が応えるように僅かに動いた。手を添えて、傷の方へと頭を傾ける。あれほど(あふ)れ出ていた血が、嘘のように途端に止まった。

「今、血の流れを止めております。腕がしびれるように感じますが、血が(とどこお)っている証拠です」

 ジークヴァルトは小さく頷いた。これは日本での記憶にあった、止血点を圧迫して血を止める方法だ。

(抑えるのはどれくらいが限界だったかしら……)

 あまり圧迫時間が長すぎると血行が遮断され、その先の腕が壊死(えし)してしまう。一定の時間が経ったら、一度圧迫を緩める必要があった。だが、その知識が曖昧(あいまい)で、どうするのが正解なのかが分からない。

 リーゼロッテは恐る恐る、抑える指の力を(ゆる)めた。途端に肩口から滝のように血が流れだす。

(駄目っ!)

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