寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 翌日、意識が戻ったとの知らせを受けて、リーゼロッテは急ぎジークヴァルトの部屋へ向かった。淑女のたしなみも忘れて寝室へと足を踏み入れる。ここ何日も訪れた場所に、戸惑うことは何もなかった。
 居間を抜けて枠だけの扉をくぐる。その先の寝室で目にしたのは、寝台の上で身を起こし、書類に目を通しているジークヴァルトだった。

「ジークヴァルト様……?」

 青い目と視線が合い、安堵のあまりその場でへたり込みそうになる。だが、ナイトテーブルにうず高く乗せられた書類の束が目に入り、思わずジークヴァルトのもとに駆け寄った。

「一体何をなさっているのですか!」

 手にした書類を乱暴に取り上げる。面食らったような顔のジークヴァルトを見上げ、リーゼロッテはその唇を小さく振わせた。

「ようやく意識が戻ったばかりですのに……もっとご自分を大切になさってくださいませ」

 いつになく強く言ったリーゼロッテの頬に、ジークヴァルトは指を滑らせた。溢れる涙をぬぐい、その顔を上向かせる。

「心配をかけた。もう問題ない」
「ヴァルト様……」

 大きな手に引き寄せられて、リーゼロッテはその胸に顔をうずめた。包帯が巻かれた体から、薬草の香りが(ただよ)った。大きな手が髪を()いていく。嗚咽(おえつ)(こら)えきれないまま、リーゼロッテはその体にしがみついた。
 ジークヴァルトが痛みに顔をしかめると、リーゼロッテはあわてて預けた身を起こした。

「ヴァルト様……申し訳ございません」
「いい。大丈夫だ、問題ない」

 そう言ってジークヴァルトは再びリーゼロッテを引き寄せる。今度は遠慮がちに頭を預けると、リーゼロッテはぽつりと言った。

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