寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「わたくしがあの場に行かなければ、ヴァルト様がこのようなお怪我をなさることはなかったのに……」
「お前に落ち度はない。ダーミッシュ嬢が無事ならそれでいい」

 そっけなく言われ、思わずその顔を見上げる。

「わたくしは嫌です! わたくしだけが守られて、安全な場所でのうのうと過ごすなど」
「それでもお前を守るがオレの義務だ」

 静かにそう返されて、リーゼロッテは悲しそうに顔をゆがませた。

「それならば、わたくしにもヴァルト様を守る義務がありますでしょう?」
「そんなものは必要ない」

 拒絶するような言葉に、リーゼロッテはジークヴァルトからその身を離した。

「旦那様……」

 声掛けと共にロミルダが気づかわし気に寝室に入ってきた。

「お医者様が診察にと来られております。リーゼロッテ様はお部屋にお戻りになっていただいてもよろしいですか?」
「……ええ、わかったわ。ジークヴァルト様、お体がおつらいところに、(わずら)わしいことを申し上げました。わたくしのことは、どうぞお気になさらないでくださいませ」

 淑女の礼をとり、その場を辞する。リーゼロッテはすぐさまジークヴァルトの部屋を後にした。隣にあるリーゼロッテの部屋へは、あっという間にたどり着く。

「リーゼロッテ様……旦那様に代わって、わたしから謝罪いたします」

 扉の前で突然ロミルダに頭を下げられ、リーゼロッテは驚いたように振り返った。

「ロミルダに謝ってもらうことなんて何も……」
「いいえ。先ほどの旦那様は、あまりにもひどい言いようでした。ですがあれは、大事な方に弱みを見せたくないという、殿方の見栄(みえ)でございましょう。ですからリーゼロッテ様、どうぞ旦那様をお許しになってください」
「許すだなんて……」

 戸惑いながらロミルダを見つめる。不安そうな表情を受けて、リーゼロッテはその口元に淑女の笑みを浮かべた。

「心配してくれてありがとう。ヴァルト様を支えられるように、わたくしも努力するから」
「リーゼロッテ様……」
「わたくしたちは龍が決めた相手同士ですもの。ヴァルト様もちゃんとわかっていらっしゃいますわ」

 安心させるように言う。それでもなおロミルダは、その表情を曇らせた。

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