寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「お嬢様、公爵様のご様子はいかがでしたか?」
「ええ、無事に意識は戻られたわ」

 エラに迎え入れられて、居間のソファ、アルフレートの横へと座る。そのもふもふに肩を預けながら、リーゼロッテは小さく息をついた。

「ご容態は思わしくないのですか?」
「いいえ、思いのほか元気にされていたわ。ここ数日の心配が嘘みたい。だって、ジークヴァルト様ったら、寝台の上でもう書類に目を通していらっしゃったのよ? わたくし思わずそれを取り上げてしまったわ」

 リーゼロッテはおどけた調子で言った。しかし、エラはそんな様子のリーゼロッテを心配そうに見やる。

「公爵様と何かございましたか?」
「……隠しても、エラには何でも分かってしまうのね」

 リーゼロッテは半ばあきらめたように微笑んだ。

「こんなときだからこそ、ジークヴァルト様を支えなきゃって思うのに、ヴァルト様はちっともわたくしを頼ってくださらないの。わたくし、それが悲しくて……」

 瞳を伏せたリーゼロッテの手を、エラはやさしく握った。

「そうでございましたか。公爵様は、お嬢様に弱った姿をお見せになりたくないのかもしれません。男性特有の強がりではないでしょうか」
「エラもロミルダと同じようなことを言うのね」
「でしたら間違いないのでは。ロミルダは公爵様の乳母だったと聞いております。公爵様のことをよく分かっているでしょうから」

 エラの言葉にリーゼロッテは「そうね」と頷いた。これ以上、周りを心配させてはならない。そんなことを自分に言い聞かせながら。

「それと、お嬢様。本日の午後に、旦那様が公爵家(こちら)にいらっしゃると連絡を受けております」
「フーゴお義父様が?」

 エラが旦那様と呼ぶのはダーミッシュ伯爵だけだ。久しぶりに会える父に、リーゼロッテの表情が明るくなった。

「では早速、お迎えする準備をいたしましょうか」

 ジークヴァルトが心配で、リーゼロッテはここ数日憔悴しきっていた。こんなやつれた様子をフーゴには見せられないと、リーゼロッテは大きく頷いた。

「ありがとう、エラ」
「エラはずっと、お嬢様のおそばにおります」

 そう言ってエラは、静かに頷き返した。

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