寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「そのことが原因で周りからもいろいろと言われたし、クリスタには本当につらい思いをさせてしまった。そんな日が長く続いて、リーゼが来る直前くらいには、ふたりで会話をすることもほとんどなくなってね。クリスタが傷ついているのは分かっていたのに、わたしは領地経営ばかりにかまけて、彼女の苦しみをずっと見て見ぬふりをしていたんだ。でもね……」

 涙にぬれた瞳のまま、リーゼロッテは黙って話を聞いていた。その頬をフーゴの指がやさしくぬぐっていく。

「リーゼが伯爵家にやってきたあの日、わたしは久しぶりにクリスタの笑顔を見たんだ。その前に彼女がいつ笑ったのか思い出せないくらいだったから、わたしはその時本当に後悔したよ。愛するクリスタを、どうしてこんなにも遠ざけていたんだろうってね」

 ずっと仲睦まじく見えていた両親だけに、驚きが隠せない。不安そうに見上げるリーゼロッテに、フーゴはやさしく微笑みかけた。

「子が(さず)からないのはどうしようもないにしても、もっとクリスタの思いを聞いて、あの時きちんと会話をすべきだったんだ。わたしは自分が傷つくのが怖くて、クリスタに向き合うことを()けてしまった。あんなにも長い時間、クリスタにつらい思いをさせていたのかと思うと、今でも胸が苦しくなるよ」
「お義父様……」
「だから、お前には後悔してほしくないんだ。リーゼはジークヴァルト様にきちんと自分の気持ちを伝えたかい? 言葉は少ないけれど、ジークヴァルト様はとても誠実なお方だ。ずっとおそばにいるんだ。リーゼロッテだってそう感じているだろう?」

 大粒の涙をこぼしながら、リーゼロッテは小さく頷いた。ジークヴァルトはいつだって自分を大切にしてくれた。そのことだけはよく知っている。

「お前とジークヴァルト様は、確かに決められた間柄なのかもしれない。けれどそれを理由に、相手を知ろうとしないのは違うと思わないかい?」

 言葉にならなくて、リーゼロッテは何度も何度も頷いた。

「ただ、自分の気持ちを押しつけるだけではいけないよ。きちんとジークヴァルト様に向き合わないと」
「そうすれば、わたくしも、ちゃんとヴァルト様と家族になれるのでしょうか……?」

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