寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 意識が戻って数日、絶対安静を言い渡されているジークヴァルトは、相変わらず書類仕事をしているようだった。リーゼロッテはそれを阻止するために、足しげくジークヴァルトのもとに通っていた。

「またお仕事をなさっているのですか? お医者様にも無理しないよう言われておりますでしょう?」

 寝室に入るなり、書類を手にするジークヴァルトに声を荒げた。来るたびにこんな調子なので、挨拶よりも先に小言が口をついてしまう。
 フーゴと話をして以来、リーゼロッテはジークヴァルトときちんと向き合うことを決めていた。

(お前はそのままでいいと、何度もヴァルト様に言われてきたもの)

 だから、我慢はしないことにした。ある程度開き直らなければ、ジークヴァルト相手では同じことをただ繰り返しかねない。

「お願いだからマテアスも、もっとちゃんと気を遣ってちょうだい。でないとわたくし、ずっとここで見張ることにするわ」
「そうしていただけますと、旦那様の回復も抜群に早まりそうですねぇ。急ぎの書類には目を通していただきましたので、今日の所はリーゼロッテ様のおっしゃる通りにいたしましょう」

 書類の束を抱えると、マテアスはジークヴァルトの顔を見た。

「では、旦那様。薬湯をしっかり飲んでお休みになってくださいね。リーゼロッテ様、後ほど(ロミルダ)が参りますので、それまで旦那様のことよろしくお願いいたします」
「ええ、まかせてちょうだい」

 腕まくりをする勢いでリーゼロッテは頷いた。マテアスが出ていった寝室は、ジークヴァルトとふたりきりだ。だが、そんなことを意に介するリーゼロッテではない。

「さあ、ヴァルト様。こちらをお飲みになってから、横になってくださいませ」

 薬湯の入ったグラスをずいと差し出した。なみなみと注がれている液体は、黒とも緑ともつかないおどろおどろしい色をしている。その味は超激マズと言っていい。リーゼロッテも昔、怪我をしたときに飲んだことがあるが、これを飲むくらいなら二度と怪我はすまいと心に誓ったリーゼロッテだ。

< 221 / 403 >

この作品をシェア

pagetop