寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 その薬湯を、ジークヴァルトは一気に飲み干した。味わって飲むものではないが、ためらうことなくあれをあおれるジークヴァルトに、思わず尊敬のまなざしを向けてしまう。自分だったら、泣きながら軽く一時間はかけてちびちび飲むことだろう。

「さっ、ヴァルト様」

 ぼふぼふと枕を叩いて、横になるようにと促した。ジークヴァルトは眉間にしわを寄せたまま、それでも何も言わずに体を上向けさせる。寝台に体を預ける際に、痛みからか、ジークヴァルトは小さく顔をゆがませた。

「すぐに痛み止めが効いてくると思います。しっかりお体を休めてくださいませ」

 薬湯には鎮痛効果と、眠気を誘う作用がある。まだ微熱の残る頭に冷えた布を乗せると、リーゼロッテは寝台の傍らの椅子に腰かけた。

「言われた通りこのまま寝る。ダーミッシュ嬢はもう部屋に戻れ」
「嫌ですわ。だってヴァルト様、目を離すとすぐに起きあがってご無理をなさいますもの。ロミルダが来るまで、わたくしここにいさせていただきます」

 つんと顔をそらしてリーゼロッテは唇を尖らせた。その様子にあきらめたのか、ジークヴァルトは小さく息をついて目を閉じた。ほどなくして、規則正しい寝息が聞こえ始める。

(やっぱり無理をしているんだわ……)

 薬湯が効いているとはいえ、その顔色は決してよいとは言えない。あれだけの血が流れたのだ。回復するまできちんと体を休めてほしい。駄目だと言われても、これだけは絶対に引くまいと、リーゼロッテは硬く心に決めていた。
 温まった布を取り、氷水に浸す。それを絞ってから、再びジークヴァルトの額に乗せた。

(これくらいしかできないなんて思ってはいけないわ。わたしにもやれることがある。それに感謝しないと)

 ふと、ジークハルトに言われたことを思い出した。手を握るだけで癒しの効果があるらしい。あの日は手を握ったまま眠りこけてしまったが、確かにその翌日にジークヴァルトの意識は戻ったのだ。

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