寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇

 それからさらに数日、リーゼロッテが止めるのも聞かずに、ジークヴァルトは執務室で領地の仕事に精を出していた。寝込んでいた期間の分、書類の山も普段の倍以上となっている。

「ヴァルト様。おつらくなったらすぐにおっしゃってくださいませね。黙っていても駄目ですわよ? わたくし、ちゃんと見ておりますから」
「ああ、好きにすればいい」

 リーゼロッテのぐいぐい加減にあきらめたのか、ジークヴァルトが拒絶を示すようなことはなくなった。だが、だからと言って、(こころよ)く受け入れているかというとそうでもない。まだまだ歩み寄る必要があると、リーゼロッテは強く思っていた。

「そろそろ一度休憩いたしましょうか」

 マテアスの声掛けとともに、ジークヴァルトはリーゼロッテの隣に腰かけた。ルーチンワークのあーんの往復を終えると、リーゼロッテは満面の笑みを浮かべ、ジークヴァルトに手を差し伸べる。

「さあ、ジークヴァルト様。今日もやらせていただきますわ」

 眉間にしわを寄せつつ、ジークヴァルトは黙ってリーゼロッテの手を取った。向かい合って両手を絡め合う。そのまま瞳を閉じて、リーゼロッテは手のひらへと意識を傾けた。

「手当」とはよく言ったもので、リーゼロッテがこうやって手を合わせると、ジークヴァルトの傷は確実に快方に向かっていくようだった。その回復ぶりは熟練の医師も驚くほどで、リーゼロッテは欠かすことなくこの「手当」を毎日続けていた。

(でもやりすぎると眠くなっちゃうのよね……)

 力を使いすぎると、脱力してしまう。だがそうなるとジークヴァルトが止めるのは目に見えている。リーゼロッテは慎重に力を流し込んでいた。

 眠くなるギリギリのところを見極めて、リーゼロッテはその瞳を開く。じっとこちらを見つめていたのか、ジークヴァルトの青い瞳とぶつかった。
 視線を外さないまま、リーゼロッテはしばらくジークヴァルトと見つめ合っていた。意識が戻らなかった日々の不安が大きすぎて、その瞳に自分が映っていることに安堵する。

 そんなふたりに、遠慮がちにマテアスが声をかけてきた。

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