寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「よろしければ、このまま旦那様の自室へ行かれてはどうですか?」
「いや、いい。このまま執務を続ける」
はっとして、ジークヴァルトが大きく首を振った。
「だいぶ楽になった。ダーミッシュ嬢はもう部屋に戻っていい」
「ですが……」
目を離すとすぐに無茶をするジークヴァルトに、信用はまるでない。リーゼロッテは頑なに、ここに居座ることを主張した。
「わたくし、何とおっしゃられても、ヴァルト様を見張っておりますわ」
「好きにしろ」
諦めたようにジークヴァルトはふいと顔をそらした。ここで満足してはいけない。リーゼロッテはフーゴに言われた言葉を胸に、ジークヴァルトの横顔を仰ぎ見た。
「わたくし、ハルト様に聞きました。ヴァルト様は龍の盾として、異形の者に絶えず狙われ続けていると……。そんな大事なことを、どうして今まで教えてくださらなかったのですか?」
ここ数日、ずっと胸につかえていたことを口にする。同じ託宣を受けた者として、知っておくべきことではないのか。そう非難を込めて、ジークヴァルトの瞳を覗き込んだ。
「確かにわたくしは非力で、頼りにならないかもしれません。ですが、少しでもヴァルト様の苦しみを分けてほしい……そう思うのはわたくしの我がままですか?」
ジークヴァルトに託宣の相手を守る義務があると言うのなら、自分も同じ立場のはずだ。なぜそれを受け入れてもらえないのか。
「お前に話したところで、何が変わるわけでもない。これはオレの問題だ」
ジークヴァルトは苦し気にその顔を歪めた。それは傷の痛みのせいなのか、拒絶を示すものなのか。
やはり何を言ってもジークヴァルトには届かないのだろうか。リーゼロッテの唇がぎゅっと噛み締められた。
「旦那様」
窘めるような声音でマテアスが呼ぶと、ジークヴァルトは一瞬口ごもった。次いで言葉を探すように、その視線を彷徨わせる。
「いや、違う……オレはただ、お前に余計な心配をさせたくないだけだ」
初めてその本心を聞いた気がして、リーゼロッテは泣きそうな、だが、どこかほっとしたような顔になった。
「ヴァルト様……どうか心配くらいさせてくださいませ」
懇願するように見つめてくるリーゼロッテに、ジークヴァルトは渋い顔をした。伸ばされた手は、裏腹に、リーゼロッテの髪をやさしく梳いていく。
それを答えと受け取って、リーゼロッテは溢れそうになる涙を、ただじっと堪えた。
「いや、いい。このまま執務を続ける」
はっとして、ジークヴァルトが大きく首を振った。
「だいぶ楽になった。ダーミッシュ嬢はもう部屋に戻っていい」
「ですが……」
目を離すとすぐに無茶をするジークヴァルトに、信用はまるでない。リーゼロッテは頑なに、ここに居座ることを主張した。
「わたくし、何とおっしゃられても、ヴァルト様を見張っておりますわ」
「好きにしろ」
諦めたようにジークヴァルトはふいと顔をそらした。ここで満足してはいけない。リーゼロッテはフーゴに言われた言葉を胸に、ジークヴァルトの横顔を仰ぎ見た。
「わたくし、ハルト様に聞きました。ヴァルト様は龍の盾として、異形の者に絶えず狙われ続けていると……。そんな大事なことを、どうして今まで教えてくださらなかったのですか?」
ここ数日、ずっと胸につかえていたことを口にする。同じ託宣を受けた者として、知っておくべきことではないのか。そう非難を込めて、ジークヴァルトの瞳を覗き込んだ。
「確かにわたくしは非力で、頼りにならないかもしれません。ですが、少しでもヴァルト様の苦しみを分けてほしい……そう思うのはわたくしの我がままですか?」
ジークヴァルトに託宣の相手を守る義務があると言うのなら、自分も同じ立場のはずだ。なぜそれを受け入れてもらえないのか。
「お前に話したところで、何が変わるわけでもない。これはオレの問題だ」
ジークヴァルトは苦し気にその顔を歪めた。それは傷の痛みのせいなのか、拒絶を示すものなのか。
やはり何を言ってもジークヴァルトには届かないのだろうか。リーゼロッテの唇がぎゅっと噛み締められた。
「旦那様」
窘めるような声音でマテアスが呼ぶと、ジークヴァルトは一瞬口ごもった。次いで言葉を探すように、その視線を彷徨わせる。
「いや、違う……オレはただ、お前に余計な心配をさせたくないだけだ」
初めてその本心を聞いた気がして、リーゼロッテは泣きそうな、だが、どこかほっとしたような顔になった。
「ヴァルト様……どうか心配くらいさせてくださいませ」
懇願するように見つめてくるリーゼロッテに、ジークヴァルトは渋い顔をした。伸ばされた手は、裏腹に、リーゼロッテの髪をやさしく梳いていく。
それを答えと受け取って、リーゼロッテは溢れそうになる涙を、ただじっと堪えた。