寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 草木には朝露が揺れ、小鳥たちがさえずりを響かせながら、目覚めゆく空の彼方を飛んでいく。早朝も日が昇り始めて間もない時刻に、野外の鍛錬(たんれん)(じょう)でエラはマテアスに師事を仰いでいた。

 鍛錬と言ってもエラは普段着の格好だ。汚れてもいいように着古したものを着ているが、戦うには不向きな(よそお)いといえた。日常起こるかもしれない有事に対する訓練なため、ドレス姿でも十分に動けるようにと、マテアスが指定したものだった。

「では、エラ様、はじめましょうか。まずは護身の方法からやっていきます」
「護身術ならもう学んでいます。それよりも早く戦う(すべ)を教えてください」
「ご自身を守れないようでは、リーゼロッテ様をお守りするなど到底不可能です。ですがそうおっしゃるのなら、エラ様がどの程度できるのか確認させていただきましょうか」

 そう言ってマテアスは一歩エラに近づいた。

「触れますがかまいませんか?」
「もちろんです」
「では」

 やわらかな笑顔を返したマテアスは、一瞬のうちにエラを拘束した。背後から抱きすくめて、手をクロスするようにホールドする。あっという間の事に、エラは動くことすらできなかった。

「さあ、わたしを振りほどいてみてください」

 頷いたエラは力の限り身をよじった。しかしマテアスの腕がほどけることはない。肘鉄(ひじてつ)を食らわせようにも逆に腕をきつく巻かれて、もがきながら足をばたばたさせるのが精いっぱいだ。

「これではお話になりませんねぇ」

 息切れしたままぐったりしているエラを抱えた状態で、マテアスは困り眉をさらにハの字に下げた。

「ま、マテアス、わたし……」

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