寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 自信喪失したようなエラを、マテアスは腕から解放した。ふらつく体を支え、落ち着くのを待つ。息を整えたエラが、自分の足でしっかり立ったことを確認すると、マテアスは次にくるりと背を向けた。

「まずは手本をお見せいたしましょう。エラ様、先ほどのわたしのように、動けないよう後ろから拘束してもらってもよろしいですか?」

 抱き着きやすいようにと少し屈みこむ。エラはためらいもせずにマテアスに背後からがばっと抱きついた。

「よろしいですか?」
「はい、大丈夫です」

 エラは渾身(こんしん)の力でマテアスにしがみついていた。絶対に離すまい。そう心に誓って。
 しかし、次の瞬間、マテアスはあっさりエラの腕から抜け出していた。逆に手首を取られて、背中へと持っていかれてしまう。

「えっ!? どうやって……」

 あんなに力を入れていたのに、簡単に振りほどかれてしまった。しかも、マテアスは無理やり出ていったようには見えない。よく分からないうちに抜け出された。本当にそんな感じだった。

「護身の術の基本は円運動です。相手から無理に離れようとしても、逆に拘束がきつくなるのが落ちです。次はゆっくりやってみますから、よく見ていてくださいね」

 マテアスはもう一度エラに背後から拘束させると、言った通りにゆっくりした動きで、エラの腕を振りほどいていった。

「わかりましたか? 円を描くように体をひねると相手の手が離れます。手を取られた時も同様です。相手の手首を軸にして円状に回すと、このように相手の手が外れます。さあ、エラ様もやってみてください」

 マテアスが再び背後から抱き着くと、頷いてエラは教えられた通りにやってみた。ぎこちない動きではあったが、エラは何とかその腕から抜け出していく。

「エラ様はなかなか(すじ)がよろしいですね。その動きを無意識にできるようになるまで、しばらく練習いたしましょうか。ああ、あと、相手が自分より小柄だった場合、こんなこともできますので」

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